第75話

無意識のうちにギュッと瞑った瞳をそろりと開ける。




普段ならこのタイミングで入ると、部屋の中はシーンとしていて、居たたまれない気持ちが襲う。




でも…。




今回はそういうことが一切なかった。




あたしがドアを開けたことすら、気づいている人はおらず、みんなパタパタと大きな部屋を歩き回っている。




「………」




あたしは呆気に取られて言葉も出ない。




大きな宴会場と言ってもいいくらいの、仕切りのない部屋。




窓は鉄格子がはめられており、カーテンはボリュームのある大きなカーテンが束ねられている。




カラーは緑で、縁は金色の刺繍が施されており、天井にはもちろんシャンデリア。




大きな仕切りはないが、置かれたドレッサーは、一人一つ準備されているようだった。




「千亜稀ちゃん!」




窓際の方から声がする。




「あ、マミヤちゃん…っ」




あたしは人込みを掻き分けて、マミヤちゃんの元に急いだ。




「ぎゃ!!」




途中ですれ違う何人かのお嬢様。




すれ違うみんなの格好は、ドレスドレスドレス!




しかも…一般的なドレスじゃない。




なんかレトロチックというか…




「仮装パーティーですわ」




マミヤちゃんが頭に帽子をつけながら言う。




白いレースが刺繍された黒色のミニハット。




メイクは目元が真っ黒のバリッと目力メイク。




ガバッと胸元の開いた真っ黒のドレス。




「マ、マミヤちゃんのその格好は…?」




「魔女ですわ」




そう言ってマミヤちゃんは薄い唇に赤を落とした。




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