第70話

「もー克穂!そんな冷たいこと言わないの!千亜稀ちゃん、克穂にいじめられて泣いてない?麻生新地に浮気してない?」




さすが、蜜ちゃんのズバッと蜜歩節。




サラッと笑顔で、サラッと爆弾発言をかましてくれる。




「ま、まさか!新…麻生くんとはもうクラスも離れたし…」




あたしはあわあわと弁解した。




「じゃ、良かった」




蜜ちゃんは笑う。




「はーい!集合!みなさん着替える時間がなくなってしまいますよ!!…あ、佐伯原さんお疲れ様です。すみません、生徒が迷惑をかけてしまって」




先生も丁寧に頭を下げ、申し訳なさそうに言葉を綴った。




「いえいえ。母の学校の生徒を見ることは、年に1回しかないので、とても嬉しいですよ」




お父様は優しく微笑み、王子の方を向いて言う。




「じゃ、千亜稀ちゃんにも会えたし、私達は帰るから」




王子はお父様に向き合って、ジッと視線を見据えていた。




先生に煽られて、頬を染めていた女生徒達はおずおずとホテルの中に入っていく。




「えっわざわざこのために!?」




「気づいてないかもしれないから言っておくけど、今日は土日だよ?だから遊びがてらやって来たんだ」




蜜ちゃんはしれっと言う。




いやいや…遊びっていっても国境跨いできてるわけで…。




そうなの?西洋の人たちってこれくらいの感覚なの?




あたしは唖然として立ちすくんだ。




「見送りには行けないけど…」




王子がそう言うとお父様は車に乗り込みながら言った。




「またゆっくりドイツにもおいで。待ってるからね」




優しい笑みを落として車が動き出した。




「ばいばーい!」




窓から大きく手を振る蜜ちゃんに、あたしは呆気状態から抜けきれないまま、小さく手を振り返した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る