第69話

シーンとした空気がホテルの前で滞る。




あたしは痛いくらいの視線を気にしながら、お父様の方へと視線を戻した。




「いえ、あたしは…」




そう言おうとした瞬間、お父様の後ろから黒い影が飛び出した。




「千亜稀ちゃん、ほんっとからかいがいありすぎ」




お父様の後ろから蜜ちゃんが顔を出す。




「へ」




蜜歩ちゃんの顔を見て、次にお父様を大きく見上げると、その顔は“してやったり”と悪戯っぽく微笑んでいた。




「あはは、嘘だよ。千亜稀ちゃん」




「なっ∑」




あたしはンガッと口が開く。




この親子、ずぇったい血が繋がっていますよ!ずぇったい!!




あたしはギリギリと奥歯を噛み締めた。




「本当に騙されやすいんだなぁ、それじゃ克穂も心配だ」




そう言ってあたしの頭を優しく撫でる。




その仕草に回りの女の子達はキュンと心臓を刺されたようだった。




「許可なくからかってもらったら困りますよ、父さん」




お父様の手のひらからベリッとあたしの体を剥ぎ取って、王子があたしを引き寄せる。




「そうか、許可が必要だったのか。それは知らなかった」




お父様は優しく微笑みを返す。




「か、克穂くんのお父様!?!?」




そのことに周囲の女の子たちはまたまた興奮モード。




「めっちゃカッコいい!めっちゃカッコいい!!親子揃ってカッコいい!!!」




その台詞がささやかに連呼されているのに、当の本人達は聞いてもいない。




「…千亜稀も。お前この制服着てるんだから間違われるはずないだろ」




呆れた顔であたしに言う。




「うっ…ι」




その言葉にあたしは言葉が出なくなった。

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