第68話

バスに乗ってホテルに帰ると、一号機のバスの前に大きな人だかりが出来ている。




「なっ!!!」




窓ガラスにへばりついてその光景を見ると、そこにはお父様の姿が見えた。




王子と同じ茶色の柔らかそうな髪。




王子よりも背が高く、優しげな色気を見に纏っている。




(だ!だった!!!お父様が来て下さっていたこと、すっかり忘れてた!!!)




その日の夜、マミヤちゃんが倒れたこともあり、お父様がいることをあたしはすっかり忘れていた。




グィーン




バスのドアが上に上がり、あたしは階段をジャンプして地面に降り立つ。




「お、お久しぶりです!」




人込みを掻き分けて、あたしはお父様に近づいた。




一礼してお父様の視線を浴びる。




かっこいい、とキャイキャイしていた女生徒の視線を、あたしは総なめすることになった。




…こんなの総なめしたって全然嬉しくない…




王子といる時と一緒。




女の視線ほど怖くて仕方ないものはない。




(お母様も苦労されたのかな…)って、別に結婚とかそんなこと、リアルに考えてないけどね!?




あたしは自分自身に釘を刺して、目の前に立つお父様を見つめる。




「あれ?蜜歩?さっきまで私の後ろにいなかったか?」




お父様がキョトンとした顔で言った。




(へ…)




お父様のこの声に、周りにいた生徒も「この子蜜歩ちゃん?」と囁きあっている。




(そ、そんなぁ!)




見分けてもらえていると勝手に思っていたから、この言葉は直に胸をえぐった。




今まで向き合って間違えられたのは初めてだったから。

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