第64話
その後、午後1時になるまでに、この場所に全員集合。
1時半から、湖のほとりに建つ、ある古城を見学することになっていた。
いつもなら絶対テンションが上がって、マミヤちゃんと妄想やら何やらを繰り広げていたはずなのに、今日はしっとりと大人しい。
「マミヤちゃん…」
あたしが問い掛けても、今のマミヤちゃんはどこか意識が飛んでいるようだった。
この姿、この感情、多分知っている気がする…。
王子とマミヤちゃんの仲を聞かずに、…聞けずにいたあの頃のあたし。
あの時、マミヤちゃんが変に問いかけたりしてこなかったから、あたしは自分の中だけで苦しみを押し殺すことが出来た。
人ってわがままだけど、聞いて欲しいときと、そうじゃないときがあるから不思議。
本当に辛いときは、口に出せなかったりもする。
吐き出さないとダメだよ って前までは思っていたし、友達にも言っていた。
でも…、言葉にすることで、好き が大きくなるのと一緒で、言葉にすることで、辛さ が大きくなっていくときもある。
だから言わない時は無理には聞かない。
もし、本当に聞いて欲しいなら、マミヤちゃんはちゃんと自分から言ってくれるはずだから。
あの時を経験したあたしにとっては、今では辛いことが起こっても、マミヤちゃんなり王子なりに話せる時は、まだそんなに苦しくないんだよね?と自分に言い聞かせている。
あの頃の思いにすれば、他はずいぶん易しくて、大丈夫なんだって思うんだ。
人は辛さを積んで強くなっていく。
それは本当に辛いし、悲しいことだけど、そうやって人は耐性や心の鋼を持っていくんだと思う。
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