第62話

「ちょっ…」




充くんのそんな返答に、少し頬を染めて、あたしは食いつく。




「あーさみっ。俺ちょっとあったかいもんでも買ってくるわ」




そう言って充くんは腕を擦りながら、近くにあった売店に入っていってしまった。




「………」




…はぐらかされた…





あたしは、充くんが手を置いた場所を触って、売店へと消えた充くんの後を見つめた。




「無理だって。千亜稀には」




いきなり背後から王子の声が聞こえ、あたしはびっくりして振り返る。




「ほら」




王子があったかいレモンティーをあたしに渡した。




「ありがと…」




それを受け取って、あたしたちは湖に続く階段の一番上の段に腰掛ける。




「無理ってどういうこと…?」




「千亜稀に、充を落とすことは無理だな」




王子はピエたちの背中を見つめながら、紙コップに入った飲み物を飲んだ。




香りからして、それはコーヒー。




「落とすって…そういう表現じゃなくてさ…」




あたしはカップで手を温めながら小さく呟いた。




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