第57話

それは、ウエディングテディベアの耳。




耳の下には薄くて白い布が施されていて、花嫁になっている。




(か、可愛い…っ)




「マミヤ、すごい似合ってる」




ピエが優しく微笑んだ。




ノーマル耳とウエディング耳をつけた二人は、なんだかラブラブ腹立たしいカップルのよう。




あたしも羨ましくなってそれを探した。




ガシッ




突然頭に圧迫感が走って、あたしは瞳だけでそれを見上げる。




「…は」




王子の手のひらに押さえられていて、あたしは振り向いて王子を見た。




「それが似合う」




王子のまつげがあたしを捉えて、上から見下ろされている。




ふっと片方の口元を上げて王子が呟いた。




あたしは嬉しくなって、鏡を探す。




「…っ!!!」




鏡に映ったあたしはの頭上、つけられたカチューシャは侍系…いや相撲のあの頭。




マゲだ!




「ななな…」




あたしは鏡越しに王子を睨み上げる。




「…なんでイギリスなのに、こんな日本チックな…」




王子はしげしげと不思議そうに顎をさすって、鏡越しにあたしを見つめて呟いた。




「そっこじゃなーーーいっ!!」




あたしはその耳を床に叩きつけて、腹を立てると王子がジッとあたしを見つめて言う。




「…それ、商品」




そう言って床でくたっているカチューシャを指差している。




あたしはぐっと唇を噛んでそれを持ち上げると、片方の耳がお辞儀をした。




「…!?」




耳を指で押し上げてみる。




くたっ




またお辞儀をする。




「げ…も、もしかして…」




「…アホ」




王子が横目であたしに失笑した。

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