第55話

…不覚にも。




そう真剣な眼差しで言ったピエの横顔が、心底綺麗で目を奪われた。




潤んだ瞳が輝きを増したせいではない。




その真剣で真っ直ぐな瞳が、想いが胸に痛かった。




ベッドの横で膝まづいてマミヤちゃんの手を取るピエに少しだけ心が震えた。




(ぐす…)




「なんで千亜稀が泣くんだよ…」




王子が後ろで呆れて言う。




「じゃって…」




あたしは溢れていく涙を手で拭いながら王子の方を振り返った。




「…それは嬉しいですわ。お願いしてもいいかしら?」




ピエのその申し立てに、クスクスと笑ってYESと言うマミヤちゃんの声にあたしは勢いよく振り返る。




(へ…?いいの…?)




今まで充くんオンリーだったマミヤちゃんがピエの声に傾いている。




あたしはだんだんと口が開き始めて、枕元に立つ充くんに視線を当てる。




充くんはそんな会話もいつもどおりの緩い顔で受け止めて、ベッドから離れようとした。




「ちょッ…「まじか!?マミヤァ!!」




あたしの声にかぶせて喜びピエの声に、充くんはベッドから遠ざかる。




「み、みつ…」




「それなら安心だ。じゃ俺もう部屋に戻るから」




笑顔のまま、充くんは手を挙げて部屋から出ていく。




「か、克穂っ!」




あたしは王子に助けを求めるが、王子はちらっと充くんの方を向いて、またマミヤちゃんの方に視線を戻した。




「はいはい!今日はもう遅いから寝なさい!明日寝坊したら置いてくからね!」




先生が話の軸を止めてしまい、あたし達はおずおずと離れることになった。




「じゃ」




そう言って、マミヤちゃんから離れようとしなかったピエを掴んで王子も部屋を去っていく。




あたしはその後ろ姿を見ながら、なんとも言えない気持ちに駆られていた。




…大丈夫なのか…?修学旅行…ι




何か、今までのバランスが大きく崩れてしまうような、そんな不安な気持ちがあたしに押し寄せ始めていた。

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