第53話

マミヤは思う。




充の本当の気持ちは、いつもどこに隠してあるのか。




優しい雰囲気のトゲに覆われた充の本質は、なかなか顔を見せなくて、でも確実にその奥にある。





克穂とは少し違う、凜とした雰囲気の中に隠している充の顔。





なかなか本音を見せない充は、いつもどこか傍観者で第三者で、際立って焦ったり、取り乱したりはしない。






かつては、克穂もそうだった。




どこか違う世界に住んでいて、冷静というよりも生気のないような、どこか遠い壁を思わせていた。





それが千亜稀と出会ってから、欲しいものを欲しいと言うようになった。




克穂が他人に興味を持ち始めた。





マミヤは思う。




いつか充もそうやって誰かを欲しいと思う時がやってくるのだろうか、と。




自分の型なんか取り壊して、その人の心を求めるようになるのだろうか、と。




その相手が…自分であるのか。




他の誰かなのか…。




そう考えると、胸が締め付けられて適わない。




今は、自分が傍に…隣にいることに、充は嫌とは言わない。




でも…




一緒にいて欲しい、と言われたこともない。




それは充の心の中に、欲しい誰かがいないから?




いつか、他の誰か…大切にしたい誰かが、現れてしまったら?




マミヤは小さな胸でそう思う。




ぼぉっとする。




すっと血の気が引いて、マミヤは態勢を崩した。




「マ、マミヤ…ッ!?」





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