第52話

「別に誰も大和撫子が好みなんて言ってねぇよ?ただ、久々に見る日本の女の子は可愛いなって言っただけ」




ゴロンと寝返りを打って、充はクリーム色の天井を見上げる。




ソファーからはみ出した体が、充の成長ぶりを感じさせる。




出会った頃は同じ背丈で女の子みたいに可愛かった充も、今ではすっかり背が高くなり、爽やかな男に成長していた。




小学部の頃から、“男らしい”というのは変わっていなかった。




上手に表現できないけれど、いつも男同士でワイワイやっていて、恋だの好きだのというマセた事は一切見受けられなかった。




でも女の子に人気は高くて、愛想も良くて、マミヤとしては気が気じゃなかったのを覚えている。




そして転校。




離れ離れになって、はっきり気がついた自分の気持ち。




中学生になって帰ってきた充は、すっと背が伸びて落ち着いて、洗練された男らしさが備わっていた。




克穂同様騒がれる存在になり、新聞部で取り上げられた充のインタビューに、マミヤは手が震えたのを今でも覚えている。




小さい頃から少し日本人離れした顔立ちで、大きくなるにつれて縦巻きのくせが出てき始めた髪。




大和撫子を求めて、日々努力してきてはいたけれど、一向に報われることはなかった。




それが今回。




克穂が千亜稀を連れていったことで、出来た二人の時間。




(…もしかして、克穂はこれが目的で千亜稀ちゃんを連れて行ったのかもしれませんわ…)




充に視線を当てながら、マミヤは思う。




チラッと時計を見ると、もう夜中の11時を回っていて、“ちょっと借りる”の“ちょっと”は2時間経過していた。




いや、少し前に「ちょっと待ってて」の「ちょっと」は2時間の猶予があるって聞いたことがあった。




今回の修学旅行は、先生たち自身も楽しんでいる旅行なので点呼なんてない。




マミヤは、今までなかったこのような二人の時間に小さく喜びと照れくさいため息をこぼした。




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