第46話

「……。無理だわ、このまま部屋に連れて帰ろっかな」




王子が言う。




あたしはその囁きに、世界の動きが止まるのを感じた。




(え…)




「マミヤ」




そう言って王子は、あたしを少し離して振り返る。




やっと見えた廊下の風景は、あちらに歩いていくピエの背中と、曲がり角から覗き見をするマミヤちゃんと、マミヤちゃんの上からニヤニヤと目尻を落としている充くん。




ギュッと抱きしめられた余韻が身体中に染み付いていながらも、その現場を見られた恥ずかしさにあたしは頬が染まった。




「な、なんですの?あたくし達何も見ていませんわ」




ドヨドヨと視線を泳がせるマミヤちゃんに、隣にいた充くんは口元に手を当てて言う。




「ばっちり最初から見てたよ!やるじゃん、克穂く~ん」




ヘラッと茶化す充くんを王子は全身で無視して、マミヤちゃんに近づいた。




「今晩こいつ…」




そう言って王子は止まる。




「ちょっとでいいから貸してくんない?すぐ返すから。それまで充とでも戯れといて」




それだけ言って、答えなんか聞かずにあたしの腕を取る。




「はっ!?俺は!?」




名前を呼ばれなかったピエが自分に指を向けて騒いだ。




「…ロビーに降りたら親父がいるから。相手でもしとけば?」




上目線のツンケンドンな瞳で王子は言い、あたしの腕を掴んだまま廊下をスタスタと歩いていく。




(あ、あたしは意思確認も無しですかー!?)

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