第45話

タオルで顔を包まれる。




「な…ッ?」




タオルの隙間から王子を見上げると、王子は眉をしかめている。




その顔がとても不機嫌で、あたしはグッと口をつぐんだ。




あんな得体の知れない輩についていったのを凄く怒っているように感じたから。




ガシガシガシッ




「はっ!?」




そのままタオルであたしの髪をくしゃくしゃにする。




そしてそのままあたしを抱きしめた。




ドキンッ




トクントクンと聞こえる王子の一定のリズムは、あたしを安心の海に寝転がせてくれる。




この音は、あたしだけの特権で、緩やかな眠りを誘うんだ。




「あーあー。俺のことなんて無視ですか」




悪態をつくピエが、両手を天井に向けながら、王子の背中越しに歩いていくのが見える。




廊下に顔を出していた宿泊客はもういなくて、廊下にいるのはピエとあたしと王子だけ。




「きゃっ」




…マミヤちゃんもいたようだ。




だから多分、充くんも…。










王子の甘い香り。




お風呂上りなのか、滴る髪の毛の雫があたしの頬を伝って落ちる。




「ね、ねぇ…?」




あたしは抱きしめられた腕の中で王子に問いかけた。

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