第44話

「ご、ごめんなさ…」




あたしは恐る恐る口を開いて、小さくさせた肩をますます小さくすぼめる。




「俺に謝ったってしょうがないだろ…。ほんっとお前、もし何かあったら克穂は次の日ムショ行きだぞ?」




あたしの額をボスボスと突ついて悪態をつく。




「…な、なんで?」




額を突つかれながら、あたしはピエを見上げた。




そんなあたしにピエは、はぁっとお腹の底からため息を漏らす。




「なんでって…。ちーちゃんの身に何かあったら克穂、絶対地の果てまでも追い掛けてってソイツ殺すと思うよ?」




王子に似たその顔が少し優しくて、でも憂いも満ちていて、何よりそんな事を告げられたあたしは胸の中がギュッと締め付けられる。




「ちーちゃんは分かってないな…。克穂と付き合うってそういうことだよ?」




突ついていた指をあたしの頭の上に持ってきて、頭を撫でてくれた。




その瞬間…




「勝手なこと言ってんなよ」




王子が少し汗を滲ませてあたし達の元にやってきた。




「ほら、な?」




そんな王子を見て、ピエはあたしに耳打ちをした。




顔はポーカーフェイスでも、焦った姿が要所に見えている。




王子は長袖シャツの手首の部分でこめかみを拭いて、ピエからあたしを引き剥がした。




「おーおー。助けた俺には一言もなしかい」




「誰がお前のsweetheartだ」




そう言って首から提げていたあたしのタオルを掴む。




「ギャ!?」




王子がタオルを掴んだまでは、見えていた視界も次の瞬間には見えなくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る