第43話

「No!No!」




あたしは必死で知っている限りの英語を使う。




「I can't speak English! I have “ハンサム”darling!」




「handsame?」




「ィェ…yes!!」




やっとまともにこちらを向いてもらえ、あたしは少しホッとして胸をなでおろす。




このまま、解放してもらおう。




男達は顔を見合わせて、立ち止まっている。





そして…



「…No~!!」




ケラケラと笑って、バシバシと手を叩いた。




ガシッ




「!!!」




笑いが一瞬で消え、男があたしの腕を掴む。




「You must …ッ!?」




男が怖い顔で何かを言いかけた瞬間、隣から黒い物体が飛んできた。




「Hey hey hey!What's the matter with my sweetheart?」




咄嗟に目を閉じたあたしはその天の声に目を見開く。




男の頭に当たった黒い何かはそのまま床に落ちて、二人の視線を奪っていた。




あたしの視線も一緒に奪う。




廊下の先にいたのは、黒髪王子こと、ピエ。




眉間にしわを寄せて、つかつかと歩いてくる姿。




「What's the matter?」




ギラッと瞳を光らせる仕草が王子にそっくりで、その威圧する瞳使いに男達も少し怯んだ。




地を這うような低い声。




ぐいっとあたしを自分の方に引き寄せて、体の後ろに隠してくれる。




王子とは違う、王子より厚い背中。




太めの腕も、黒い髪も、そして力のある目元でその男達を睨んだ。




ガチャ…




「Why…?」




騒がしい廊下に、宿泊していた客達がドアを開け始める。




「…tut!」




たくさんの人が顔を出し、その男達は観念したように足早に去っていく。




その姿を最後まで見届けて、ピエがあたしと向き直った。




「こんの…馬鹿!」




ビクッとあたしは肩を上げる。




馬鹿だけど、ホントに馬鹿だった分かってるけど、上から浴びせられたその言葉があたしの胸に突き刺さった。




ピエの声が真剣で、本当に心配してくれているって分かったから。

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