第20話

「あ、あたしは…話、なんてないんだけど…」




そう口元で言いつつも、ピエールが強引なのはおばあさま譲り。




王子も然り。




そんなあたしの都合なんてお構いなしに引っ張って、中庭の聖堂のような時計台の下に歩いていく。




そこに置いてあるベンチに腰掛け、あたしに向かってピエールが合図をした。




隣を叩いて、あたしに座れと促している。




黒い髪から見える王子に似た、綺麗な顔立ち。




ジッとあたしを見据える所なんて王子とそっくり。




逆らえないあたしは、おずおずと隣に座った。




いつもなら、大抵この後王子が参上してくれる。




あたしはピエールの隣に腰掛け、太ももの横に手を置いた。




ガシッ




置いた手をギュッと自分の口元に持ってきて、ピエールは横に座りながらもあたしと向き合うように位置づける。




両手を奪われてしまったので、あたしは半強制的にピエールと向き合う形になってしまった。




掴まれた手がピエールの唇に触れている。




「!!!」




真っ直ぐに射抜くような瞳は、王子と一緒で力強くて儚く綺麗。




あたしは一気に体温が上昇する。




指に吐息がかかる。




あたしは頭が回らない。




「俺の天使なんだ」




王子よりも少し掠れたピエの声。




あたしはドックンドックンと体中が脈を打つ。




王子は絶対言わない、こんなストレートな言葉。




黒い髪の毛、強い瞳。




ダクダクと汗は滴り、王子の助けがない今、あたしはどうしていいのか分からない。




「や、…でも、その…」




あたしがモゾモゾと口の中で言葉を並べると、ピエが言った。








「あの上鶴マミヤ!!!」







・・・。




はいー!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る