第16話

「ンッ」




強引に分け入る王子の唇が、あたしの中で溶けていく。




柔らかくて、冷たい王子の唇。




あたしの唇を優しくなぞるように咥えるかと思うと、いきなり深いキスに変わってあたしは王子のシャツを掴んでしまう。




このキスが始まると、あとは王子の思う壺。




どこまでもあたしを翻弄する。




王子が少しずつ体を倒し、あたしの首元に回した手はそのままで、ソファーに寝転んだ。




あたしも一緒に寝転がる結果になったのであたしの下に王子がいる。




パサッとソファーに落ちる前髪が、王子の綺麗な瞳を際立たせている。




その瞳にあたしの胸はまた鳴いた。




きゅんっ




「ちーちゃん、素直になったな~」




だなんて、口を開けば、さっきの弱々しい瞳はどこ吹く風。




ニヤリと目元に意地悪を見据えた王子が口角を上げて笑っている。




「∑ガッ!!!」




すーぐ王子のこの演技に騙されてしまうあたし。




そしてチュチュッと唇を奪われてしまうあたし。




「ううっ」




小さく涙を流してみても、王子のこの寵愛の前には無意味だなんて言うまでもなく、あたしは王子とキスを交わした。





ピポピポピポピポピポ~ンッ




連打で鳴った部屋のベル。




王子が不機嫌な瞳を据える。




開けなくても人物が特定できてしまう気がして何だか怖い。




ピポッピポッピポッピポピポピポ~ン♪




最後の方では歌になっている。




王子と二人、そっとソファーの背もたれから顔を出した。

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