第88話

廊下に出ると階段の踊り場で二人の姿を見つけた。




王子と…


マミヤちゃん。




「言わないのならあたくしが言いますわっ!!



あっ」




マミヤちゃんがあたしに気付き、ハッと口元を押さえた。




王子はまだ、こちらに背を向けている。





「千亜稀ちゃん─…」




マミヤちゃんの大きな瞳が今にも崩れ落ちてしまいそうで、あたしは力なく微笑んだ。




さっきは信じられないと思ってしまったけれど、きっとずっと口止めをされていたのだろうと察しがつく。




だっていつも真剣に、親身になって聞いてくれた。




流しあった涙もこの手の中にある。




何か本当に大きな事情があって、きっと言えなかったんだ。




あたしはゆっくりと首を傾けて口を開いた。




「マミヤちゃん……か、克穂…。どんな事でもいいから教えて?」




そこまで言って心臓の震えが手先に伝わる。


膝に伝わる。




ドクンドクンと脈が打つ。




ゆっくりと唇を開き、瞬き多めで王子に目配せをするマミヤちゃんを見た。




すると王子がゆっくりとこちらを振り向いた。




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