第84話

「泣き顔がブサイ…」




ここまで聞いて、あたしは新地の頭をスパコーンッッと叩いた。




ドキドキして損した!



優しい囁きにドキドキして損したっ!



ドキドキを返せ、このバカヤローッッッ!




なぜかあたしの方が真っ赤な顔で、新地を睨む。




叩かれてうなだれた頭と天井を指差す人差し指はそのままで新地は立っていた。




「…遠回しに言うと笑ってた方がカワイイという…」




「ひきつり笑顔でありがとぉぉ!」




あたしはムカムカと口元をひくつかせた。





……。




こういう気持ち、前もあった気がする…。




いつだったかな…あれは。




王子の事で苦しくて、悲しくて、元気が出なかった時に、前もこうしてくれた気がする。




……あぁ、あの時だ。




王子が女の子とデートした時。




あの時も新地はココにいた。




辛い時を知っているのか、こうやって隣にいてくれる。




いつもはムカつく姿の新地も、今は凄く温かい気がする。




柔らかくなるあたしの空気。




取り巻く空気が少しだけ、柔らかくなった。





「ひきつってたか…俺ってやっぱ嘘つけねぇな」





ピキ




「…どぉして新地ってそう一言多いのよー!!!」




.

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