第83話

「っ…」



教室に消えたその影を、俺は追った。




ガタンッ




千亜稀の鞄が、手のひらから零れ落ちる。



ドアの向こうで、麻生が千亜稀を抱きしめていた。




「う…」




一瞬だけ驚いて、顔を埋める姿がある。



麻生の背中に手を回し、ギュッとシャツを掴む姿がある。




埋める顔。



回す手。



掴んだシャツが壁一枚の先にある。




ここで飛び出していけばいいのだろうか。



奪い返せばいいのだろうか。



誤解を解いて、


きちんと話して、


…全てを話せば


千亜稀は信じてくれるのだろうか。




動けないまま、俺はただ廊下に影を落としていた。

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