第80話

あたしはそれでも動かない。



何も言えない。



頭の中が混乱していて、上手く考えられない。




あたしの見ていた王子が、全て偽り、偽者だったのかもしれないという思いが、強く心の中を支配する。




あたしがしていたものは、恋愛でもなんでもない、王子にとっては偽者の恋愛ごっこだったのかもしれない。




あたしは、また涙が溢れ出ていた。




「…っ、そんなのこと…今、聞かないで…」




ぐっと喉を鳴らして、あたしは手の甲で涙を拭った。




「新地のバカ…ッキライッキライッキライキライキライッ!!!」




顔をぐしゃぐしゃにして、あたしは叫んだ。




本当は、新地の背を通り越して、見えない姿に叫んでいた。




呼吸が出来ない。



苦しい。


苦しいよ。



涙で前が見えない。



キライと叫ぶ声だけが教室に響いている。




「…言えるじゃん」



それでも冷静に新地は言葉を漏らした。

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