第79話

あたしはその言葉に、キッと睨み上げて胸を押す。



一瞬でも、コイツに預けてしまった自分を悔やんだ。



こんな奴だった。



いつも隣からあたしをバカにして、気まぐれで無視をして、こうやって文句を言うんだ。




睨み上げると、押す力の弱まるあたし。



目の前にある、コイツの顔がいつもと全然違うから。




「…アイツのこと?」



新地が言葉を漏らす。



「………」



あたしは視線だけを逸らした。




「アイツに泣かされたの?」



答えずとも浴びせてくる新地の質問。



あたしは動かずに視線だけを逸らしていた。



「はぁ」



再び、新地はため息を落とす。




「…それでもアイツが好き?」



新地の言葉が胸に突き刺さる。




─好き?─




好きという感情が、今のあたしには傷をえぐるような心地がした。

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