第71話

ドクンドクンと全身で鳴るあたしの心臓の音が、今にも二人に聞こえてしまいそうだ。



この場を離れなきゃ。



逃げなきゃ。



きっとあたしは壊れてしまう。



あたしは胸元をギュッと握りしめ、お尻はつけたまま、よろよろと階段を降り始めた。




「嘘を固めていけば、たとえそこに愛があっても優しさがあったとしても、傷つける結果になってしまいますわ。千亜稀ちゃんに言うことをお勧めします」




マミヤちゃんの強い口調が王子に突き刺さる。




「…」



王子は無言のまま、何も答えない。




「…マミヤ…」



あたしは、静止した。




王子はマミヤちゃんのこと…マミヤって呼ぶの?




マミヤちゃんも本当は、王子の裏の顔…ずっと前から知ってたの?




「…克穂…」




ドクン…



血液が体中を駆け巡る。




克…穂?



あたしがいくら待っても聞こえてこない。



克穂の続き。



マミヤちゃんは「克穂様」って呼ぶよね?



なんで「様」って聞こえてこないの?



ねぇ、



なんで?







心臓に集まって、頭に集まって、偏った血液が体の中を駈けずり回る。




二人の切なそうな声にあたしは我を忘れ、足音が響くことも気にせず、階段を駆け下りた。

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