第64話

「咲人がお兄ちゃん子な理由、知ってる?」




廊下をズンズンと進み、人ゴミの中を掻き分けて歩く。




蜜ちゃんは、人ゴミなどお構いなしでそう言った。




「……いや、知らない」




あたしはぶっきらぼうにそう呟いた。




蜜ちゃんから教えてもらいたくない。




あたしが直接王子に聞く。




だから言わないで。




「聞きたく…」

「小さい頃、近くに蜜がいたからなの。蜜に取られるって思ったのがずっと尾を引いちゃったんだって。年に1回くらいしか会えない今になっても、蜜と会うとすっごい不機嫌なの」




タイミングが重なって、聞きたくないと伝えられずに蜜ちゃんの話を聞く羽目になったが、聞き終わった今となっては聞いて良かったと思った。




咲人くんは、蜜ちゃんと同じ(ような)顔のあたしを見ても嫌な顔もしないし、むしろ抱き着いて来てくれたり、手を繋いで街中を駆け回ってくれたりした。




ちゃんとあたしを『千亜稀』として見ていてくれていたんだ。




そして王子と蜜ちゃんの関係は、ちゃんと『幼なじみ』なんだ。




あたしは少しだけ、気持ちが明るく染まった。




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