第61話

笑う彼の後ろを王子はヒョウヒョウとした顔で通りすぎて、あたしに目配せをした。



背の高い王子は、彼の後ろからでも余裕で顔が見える。



『きょ・どー・ふ・しん』



ニコッと笑って、そう口パクすると席に戻っていく。



「見つかりましたか?」


「いや、なかったです」


と、形状的な会話を交わして王子は席についた。




あたしは唇をかみ締めながらも、そんなイジワルをする王子に愛を感じてしまう。

↑正真正銘のマゾ




ニヤニヤは止まらない。




「おっかえり~!どっこまでフラスコ返しに行ってたのかなぁ~~?」



連れられて帰ってきたあたしに、口元のホクロをまた見せつけて彼女は言った。



今度はビーカーを渡されて、指令を受ける。



「30秒で戻して来い!」



「あいっ!!」



あたしは棚を目掛けて走った。


















「?どうしたの、新地」



「いや…。おかしくない?」



「え、そう?計算間違ってる?」



「いや、そうじゃなくて…。なんていうか村岡が」



「そうか?変なのはいつものことじゃないの?」



「…そだけど。なんとなく、テンションが高すぎる…」



「はぁ?」



新地が、ペンを片手に頬杖をついて千亜稀を見つめていた。




─絶頂期こそ気をつけよ─




あたしはそんな神の声さえも、全て天使のラブソングのように聞こえていた。




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