第56話

この場所に似合う、ひんやりと冷たい空気が二人の間を流れた。



予想以上に低かったあたしの声に、あたしの手首を掴んでいた王子の力が緩んだ。



あたしは少し気が引けながらも、ちらりと王子を見上げた。



王子は無表情にあたしを見ている。




「…もっかい聞く。…それ、マジ?」



王子の瞳が揺れている。



いつもこんな顔をする。



あたしがひどく傷つけてしまったような、そんな悪い気持ちになってしまうくらいの傷ついた瞳をする。



いつもイジワルを言って、あたしを散々いじめておいて、あたしが反撃するとこうやって瞳を揺らす。



ずるい。



ホントにずるい。



今まではここで負けてしまうけど、今回はさすがに許せない。



そんな瞳で見つめたって、許さないから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る