第57話

「だから、冗談で言えることじゃないってば!」



あたしは語尾を荒げてそう叫んだ。



王子はあたしの手首を放す。



「…悪かったな」



そう言って目の前に立つ、あたしの肩を持って体をどけ、みんなの元へ帰るように足を進め始めた。





…ずるい



やっぱりずるいよ。



そうやって悲しそうな瞳に冷たい声を落としながら、あたしの肩を触った手はひどく優しいんだ。



崩れていく。



キライと思う壁。



悔しい壁。



それよりも、王子を想う気持ちが大きくなってしまう。




「…ごめん、…キライ、じゃないよ?」



あたしは王子の背中に小さく呟いた。




「!?」



その瞬間に王子に捕まる。



「んっ」



唇を塞がれ、あたしは目を丸く見開いた。



見開いていた瞳が、だんだんと閉じていく。



優しい閉じ方ができないくらい、きつく瞳をつぶった。



「っハァ…」



あたしは大きく息を漏らして王子を見る。




「…反発されるのも意外と…」




は?



王子は腕を組んで、片手で顎を擦りながら呟いていた。




「全く意味が…ていうか態度の変容についていけませんが…。怒」




.

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る