第50話

「いや、何でもないんだけど…」



下の名前で呼んだりするのって凄く特別な気がしてしまうのは、やっぱりあたしの勝手な固定概念なのだろうか。



少し距離が縮まるような、そんな見えない壁が一つなくなる時。



だから敏感になってしまう。




「村岡はこれを片付けてくる。ってのを頼んでもいい?」



もう一人の男の子があたしにフラスコを手渡した。



「らじゃ」



あたしは力なくそう呟いて、席を立つ。



理科室って物が多くて、所狭しと備品、薬剤、その他もろもろ等が並んでいた。



ここは特別教室になっていて、とても広いスペースになっている。



教室の後ろには大きな収納スペースがあり、図書館を思い出させる背の高い棚が一列陣取っているので、教室が二つに分かれているような感覚を覚えた。



あたしはその収納スペースの裏側に入って、フラスコの棚を探す。



その棚だなには、人体模型やサメか何かの骨、たくさんの種類の土を詰めた瓶、地球儀、天体の模型、などなど様々な物が並んでいた。




薄暗いし、はっきり言って怖い。



みんなのガヤガヤと話している声が、返ってあたしを孤独なものにさせる。



だって、もしここであたし一人が時空の狭間に連れていかれても誰も気づかないでしょう?

(つまり神隠しに遭うと言いたい)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る