第12話

王子は蜜ちゃんの首元に腕を回し、半ば強引に引っ張っていく。



人込みから十分離れた、階段のホールの所で何やら話をしている。




「…あんな強引な克穂くん初めて見た…」



廊下を歩く女の子達が囁きを零した。




『ちょっと来い』




確かにそう聞こえた。



王子があたし以外の女の子に初めてそう言った。



裏を出してきた。



マミヤちゃんにさえも見せたことのない王子の裏の姿を蜜ちゃんには見せるんだ。




佐藤くんが話し掛けたのが「本物」だったから、周囲の事なんかも忘れて素が出てしまったのかな?




色んな思いが交錯する。




「あたしだけ」じゃなくなった優越感に似た特別扱い



あの子の存在…関係



今、二人が話している事



そして…周りに感づかれそうな王子の裏部分─…





「さっきの克穂くんなんかヤバかったよね?」



今もまだ、こそこそと話しているのが聞こえてくる。




「なんかビックリしたぁ!あんな態度も取るんだねぇ」



「「………」」




「「堪んない~~!!」」




女の子達は、頬を染めてキャッキャッと興奮気味になっている。




「あの王子顔から裏でイジメられてみたい~~!!」




その言葉を盗み聞きして、あたしはボッと頬が紅潮した。



王子顔の王子にイジワルされている自分を思い出してしまったから。




─…千亜稀エロい─




また舞い降りてきた魔王の甘い囁きを頭の中で掻き消した。




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