第2話

廊下の隅からひそひそと囁き声が聞こえる。




聞き取れなくても内容なんて分かってしまう。




あたしは、写しのような存在と見つめ合って止まっていた。




「…本当にそっくりだ…」




写しの彼女も驚いて、手で口元を押さえている。




「克穂の彼女、蜜とそっくりだ」




口元を押さえたまま、蜜と呼ぶ少女は王子を見上げた。




『克穂』と、違和感もなく、引っ掛かることもなく、すんなりと呼ぶ。




その自然な態度にあたしはピクリと体が反応した。




「自己紹介していいかなぁ?」



王子の許可を乞て、少女は王子を見上げている。




王子は「どうぞ」と肩を竦めた。




ドキン




鼓動が再び鳴って、あたしは胸元のシャツを掴んだ。




少女はあたしの元に、数歩足を進めて穏やかに笑う。




「わたし田嶋川蜜歩っていいます!蜜って呼んでね!千亜稀ちゃん」




ニッコリと笑って握手の手を差し出す。




あたしは怖ず怖ずと手を差し出した。




握手を交わしたあたしは、一層複雑な気持ちになる。




フィアンセです


とか


婚約者です


とか


許婚です


とか



何か「名称」はないのだろうか…。




行き場知らずのこの思いをどこにぶつければいいのか分からない。




この子の存在が

ポジションが分からない。




この子、王子の…何?




.

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