第3話 仲良くなりたい

父さんが再婚して新しい家族ができて一週間が過ぎた。だいぶここでの生活にはなれたし、美愛さんをお母さんと呼ぶことに対しての緊張もなくなってきた。でも相変わらず妹になった絵梨花とは話せていない。


「そろそろ鳥居に前の掃除しないとな」


俺が今住んでいる家は神社だ。美愛さんと絵梨花はそこの巫女さんで俺は神社の仕事なんてまったく知らないから掃除を手伝っている。


「おはようお母さん、今日も寒いね」


すでに鳥居の前にいるお母さんに声をかける。


「おはよう奏くん。今日もありがとうね。私と絵梨花だけじゃ少し広すぎて掃除の手が届かなかったのよ。奏くんが手伝ってくれてうれしいわ」


「いえいえ俺たちはもう家族なんですから当然ですよ。これからも何か手伝えることがあったらいつでも呼んでください。なんでもやるので」


「ほんと?助かるわ。じゃあ今日は絵梨花と一緒に裏のほうの掃除をしてくれないかしら。しばらく手を付けてないところだから頼むわね」


絵梨花斗と二人で掃除か...これは絵梨花と仲良くなるチャンスだな。今日こそは絶対に会話をして見せる。


「わかりました。絵梨花はどこですか?」


「もう裏にいるわ。あの子なかなか話してくれないけど仲良くしてあげてね。歳の近い友達いないみたいだから」


「わかりました。できる限り頑張ってみます。俺も絵梨花と仲良くなりたいので」



裏にやってきたわけだがそこに絵梨花はいなかった。


「絵梨花ー。俺も掃除しに来たんだけど何をしたらいいかな」


呼んでも返事がない。まあたとえ目の前にいても返事はしてくれないのだけど。

しょうがないし一人で掃除するか。せっかく仲良くなるチャンスだと思ったのに。

とりあえず箒で落ちている葉っぱを掃いていく。


「にしてもでかいよなぁこの神社。これを二人で管理していたとなると相当大変だっただろうに」


本当にこの神社は広い。階段をかなり上ったところに鳥居があって建物があってその裏にはさらに裏山がある。全部を管理しようと思ったらかなり大変だ。ここにきて一週間になるが俺も全範囲に行ったことがあるかといわれるとそうではない。


「よし。掃除終わりっと」


掃除を始めてから一時間ちょっと。だいぶきれいになった。


「時間もあるしちょっと裏山行ってみようかな。景色とかいいのかな」


俺は掃除道具を置いて裏山に行くことにした。


木が生い茂った道を歩いていく。舗装された道こそないが人が通ってできた道のようなものが続いている。見渡す限り木だ。


「これどこに続いてるんだろう」


かなり歩いてきた。寒かったけど歩いたらだいぶ暖かくなってきた。


ザーザー


ふと滝の音が聞こえた。


裏山に滝があるのかと思いながら進んでいくとふと開けた場所に出てきた。


「え...」


そこにあったのは滝と川と大量のお墓だった。そして川を挟んで向こう側に少女が立っている。絵梨花だ。肌寒い空気と水の音も相まってかなり不気味だった。


「えり...」


名前を呼ぼうとして途中でやめた。絵梨花は大量のお墓に囲まれて涙を流していた。

絵梨花は俺には気づいていないみたいだ。


「なん...私はふ...の...に...れてこな...たの。どう...て私が手を...そ...ければ...ないの。どう...て私は...く...まれてしまっ...。私のこの...は誰...を...ることはでき...の。なん...どう...。ごめ...さい。ご...ん...い。...なさい。......い」


何かに必死に謝っているのは聞き取れたがそれがなぜなのかは全く分からなかった。

何かに苦しんでいるのは確かだろう。体が勝手に絵梨花のほうに歩いていた。


川を渡って絵梨花のそばに近づいても絵梨花は俺に気づいた様子はなく涙を流していた。こういう時どうしたらいいのかまったく経験のない俺はとりあえず頭を撫でた。


「何があったかは分からないけどあんまり無理しちゃだめだぞ。俺のこと嫌いなのかもしれないけど一応絵梨花のお兄ちゃんなんだ。いつでも話聞くから」


というと絵梨花はすごい速度で俺から距離をとった。


「あ、悪い。苦しそうだったからつい...」


嫌だったのかと思ってとっさに絵梨花に謝った。


「別に大丈夫」


と泣いて腫れて赤くなっている目で俺を見て言った。俺と絵梨花が初めての会話だった。


「さっきも言ったけど一応俺は絵梨花のお兄ちゃんなんだからなんでも相談してくれよ」


絵梨花は少し黙って口を開いた。


「奏くんはどうしてここが分かったの」


「裏山を散歩してたらたどり着いたんだよ。美愛さんが絵梨花と一緒に建物の裏のほうを掃除してくれって言ってたから掃除しに行ったけど絵梨花いなくて。とりあえず掃除して暇だから散歩してたらお前が泣いてたんだよ」


「...掃除はごめん。でも私は泣いてない。このことはお母さんには言わないで。それじゃあ」


絵梨花はそれ以上目を合わせず家のほうに歩いていこうとした。もしかしたら今後も同じように話してくれないかもしれないと思い一番気になっていたことを聞いてみた。


「なあ絵梨花。お前は俺のこと嫌いなのか?」


「別に」


そういって絵梨花は去っていった。


気になることはたくさんある。この大量のお墓は何なのか。絵梨花はなんで泣いていて何に対して謝っていたのか。わからないことだらけだ。でも今日は確かな収穫があった。絵梨花は俺のことが嫌いじゃない。ということは仲良くなれる可能性はゼロじゃない。やったね。



~絵梨花視点~

奏くんと別れてから私は家の方へ駆けていた。絶対私今顔赤い。奏くんに撫でられた頭に触れてみる。泣いているのを見られて恥ずかしいという思いと混ざってなんとも形容し難い気持ちになる。


「あ、そういえば...」


あの時つぶやいていたこと聞かれてしまっただろうか。もし聞かれていたらまずい。


「後で口止めしとかないと」

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