第2話 引っ越し
あれから一週間が経って俺と父さんは美愛さんの神社に引っ越す準備をしていた。
「ついに引っ越しの日だな。やっと美愛さんと一緒に生活できるのかー」
父さんは嬉しそうだ。母さんを失ってからずっと俺を育てるために一生懸命になってくれた父の嬉しそうな姿を見ているとこちらまでうれしくなる。
それに最近父さんは仕事が忙しくてなかなか二人で話すことはなかったので純粋にこうして話ができてうれしかった。
「そういえば父さん最近仕事忙しそうだったけど今度はどんな仕事をしてるの?」
俺の父さんは刑事として働いている。
いろいろな事件を解決しているから忙しいときは全く帰ってこない。
でも仕事がひと段落するたびに事件の内容だったりを話してくれてとても楽しかったりする。
「今は殺し屋を追ってる」
父の口から出たのは意外な言葉だった。現代の日本において殺し屋という言葉を聞くとは思わなかったからだ。
「殺し屋?それって人を殺す殺し屋?」
驚いて意味の分からないことを聞いてしまった
「その殺し屋だ。もうこの殺し屋を追い始めて二か月は経ったが誰も目撃者がいないんだ。死体を見る限り太刀で体を流れるように斬られてるんだよだから俺たちの間でそいつらは舞姫と呼ばれているんだ。俺は絶対こいつらを捕まえて見せる」
俺の父は正義感が強い。だかっらこれまでもどんなに困難だと言われていた事件でも解決してきた。今回の舞姫という殺し屋の件も立派に解決するだろう。そんな気がした。
「まあ俺の仕事の話はこれくらいにしてそろそろ家を出よう。向こうにつくのが遅くなってしまう」
「わかった。また進展があったら聞かせてね。」
「あぁ」
こんな話をしながら俺たちは荷造りを終え車に乗って美愛さんと絵梨花の住んでいる神社に向かって走り出した。
サッ サッ
神社の入口にほうきをもって葉っぱを掃いている巫女服の親子がいた。
「あ、お帰りなさい二人とも。引っ越しお疲れ様」
俺たちを見つけた美愛さんはすぐに声をかけてくれた。
「お帰りなさい...か」
お帰りなさいはいつも俺がいう側だったからお帰りなさいといわれるのは少し照れくさい気がする。
「ただいま」
恥ずかしさを感じながらも俺と父さんはそう答える。
「とりあえず荷物を中に運んでしまいましょうか。奏くんの部屋だったり家の中の案内だったりは荷物を片付けた後にするわね」
美愛さんにそう促されて俺たちは家から持ってきたものを運び始めた。運ぶって言っても大きい荷物は引っ越し業者に運んでもらったから皿だったり本だったりの小さいものを運び入れていく。
荷物運びは美愛さんと絵梨花ちゃんも手伝ってくれた。父さんと美愛さんは仲良さげに話しながら荷物を運んでいた。俺も絵梨花に話しかけてはみたけど決して目があうことはなく挨拶もたまに相槌が返ってくる程度だった。
そして荷物運びが終わり家の中を紹介してもらうことになった。
やはり神社なだけあって中はとても広く、田舎にあるような作りの家だった。でも部屋は現代風になっていて別に全部和室というわけでもなく俺に割り当てられた部屋も前の家の部屋より少し広いくらいで特に変わったところはなかった。
「ここが奏くんの部屋ね。隣は絵梨花の部屋だから間違えないようにね。それからこの家少し壁が薄いからあんまり大きな声を出したら隣の部屋に聞こえるかもしれないから気を付けてね」
美愛さんが家の中を案内してくれとりあえず引っ越し作業はひと段落した。
「もういい時間だし晩御飯にしましょうか。私たちの結婚祝いも込めて頑張っていろいろ作ったのよ」
引っ越し作業や家の案内をしていたらいつの間にか夜になっていた。母が作ってくれたご飯を食べるのなんていつぶりだろうか。家族の作ったご飯を食べるなんてとても久しぶりだから緊張してしまうけど楽しみだ。
「「「いただきまーす」」」
「いただきます」
晩御飯を食べ始めた。人が作った暖かいごはんなんて最後に食べたのはいつだっただろう。自然に涙が出てきた。
「美愛さん。これうまいです」
「泣いて喜んでもらえるんだったら作ったかいがあったわ。それに美愛さんじゃなくてお母さんって呼んでほしいな。もう家族なんだしね」
お母さん...か
「お母さん。おいしいです」
だいぶ照れくさかったけど美愛さんのことをお母さんと呼んだ。
「絵梨花ちゃんも俺のことお父さんって呼んでくれていいんだぞ!」
父さんが絵梨花ちゃんに向かって言う。
「おとうさん...」
かすかだが確かに絵梨花ちゃんは父さんのことをおとうさんと呼んだ。
「なんか家族っぽくていいわね」
「もう家族なんだよ」
美愛さん...じゃなくてお母さんと父さんがそんなことを言ってる。
「絵梨花ちゃん、俺のこともお兄ちゃんって呼んでくれてもいいんだぞ」
「...」
え、俺もしかしなくても嫌われてる?これからの生活不安しかないんだけど。
「絵梨花はきっと恥ずかしいのよ。だからこれに懲りずにまた話しかけてあげてね」
美愛さんはそう言ってくれた。
一つのテーブルを囲って談笑しながら食事をとるのは幸せなことなんだなと改めて思った。晩御飯を食べているうちにこれからの生活に対する不安は薄れて楽しく家族一日目を過ごすことができた。
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