19話 犯人の意図

「どうかしたかい? ルクティー」

「あ、い、いや……なんでも」

「……どうやら何か地雷を踏んだらしい。ルクティーは……、あんまり不用意に喋らない方が良さそうだな」

「ですな。呪法は細やかな部分でやらかして後悔することも多いですから」


 メリケルさんが、穏やかな表情のまま続ける。


「さきほどの質問ですが、犯人はルクティー様に呪法をかける“意図”はあったと思いますよ。でなければそもそも攻撃に成功しません。それほどに、呪法というのは強い集中力や執念がなければなりませんから」

「オレもその場に居た。確実に、ルクティーに呪法攻撃を仕掛けている奴はいた。肌感覚で申し訳ないけれど、そこは断言できる」

「……厄介なのは、おそらく術者が想定した掟や禁忌には必ずしもなっていない可能性が高い……という話です」

「犯人はわたしに望んだ通りの攻撃を与えられていないということですか?」


 自分の発言に気をつけながら、わたしは言った。


「その通りです。呪法とは本当に複雑なものでして……例えば私が呪法使いだとして、なんの恨みもないルクティー様を呪殺するために無理矢理に掟や禁忌を設定したとしても、実際はもっとヘナチョコな掟や禁忌がルクティー様に課せられるか、そもそも攻撃に失敗するでしょうな」


 長考していたルフナが、顎に手を当てながら話した。


「つまり……犯人はルクティーを呪殺する想定で掟や禁忌を設定し、攻撃に成功させたが……どこかで横やりが入った――それが、神父様の言う“複数の術者”の存在である可能性が高いってことか」

「どのような掟や禁忌がルクティー様に課せられているのか、私たちには知ることができません。なので明確なことは言えませんが、まぁそういうことです」


 呪法の内容を知ることで、より謎は深まってしまった。けど、何も知らないよりはこれも前進だ。前進前進!


「ただ、複数の紐がぐちゃっと絡み合っている状態故、問題は明らかなので、力業で解除することはできそうな塩梅です。なので、できそうで、できないと言いました」

「どうすればルクティーの呪法は解除できる?」


 単刀直入なルフナの質問。こういう所を見ていると、彼の有能な感じがヒシヒシと感じられる。


「大量の白魔石が欲しいですな。物量さえあれば、あとは我ら聖法使いによる“複合聖法”によってどうにでもなりそうです」

「複合……?」


 あまり聞いたことがないワードで、わたしは聞き返した。


「ええ。今回のルクティー様のように、物量さえあればなんとかなる、といった場合は、複数の聖法使いで呪法解除を行います。“聖火の焔”と“複合聖法”を扱うことで、私たちの呪法解除率は8割を維持しています」


 ――凄い。だから、みんなフレイムリードを頼ってやって来るんだ。


「魔石はどの程度必要なんだ?」

「なんとも言えませんが…………10トン――くらいですかねぇ」


 言葉で言われても、イメージできないくらいの量が必要だということはわかった。

 プリスウェールド御用達の魔石屋さんの在庫全部でも足りるのかどうか……。


「……遠征を途中抜けしたのが痛手に出たな」


 そういえば、ルフナたちは魔石がたくさん眠る遺跡に魔石採取の名目で向かったんだった。あの兄様も着いて行くくらいだし、相当貴重なものもあったのだろう。


「白魔石10トンくらいあるのかな」

「キーム殿の話では魔石の宝庫だという話だ。だから王国として遠征隊を派遣しないわけにはいかなかった、ってわけさ。白魔石は比較的珍しいほうだが、どうだろうな……ただ、どっちにせよプリスウェールドに向かう必要はあるな」


 遠征隊と別れてから20日は以上は経っている。もう遺跡には到着しているだろうし、魔石も採取中か、もしくは作業は終わっているはずだ。


「行って、どうするの?」

「……前にも言ったけど、犯人に心当たりがある。婚姻の儀での立ち位置を思い出してくれ」

「えーと、うん……」



----------------------------------------

ジ|     兄  ☆  王

ク|

メ|          シ

弟|

妹|      ル   ニ   キ

他|

他|

他|

他| ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

 |○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 



ジ:ジレッド先生

ク:クレイ

メ:メリア

弟:弟

妹:妹

他:親戚他

兄:兄様

☆:わたし

王:父様

シ:シンク

ル:ルフナ

二:ニルギム

キ:キーム

○:他参列者

-----------------------------------------


 ……大体、こんな感じだったかな?


「呪法特有の、薄い霧のような魔力の流れが、右方向から流れてきているように感じた。位置確定とまではいかないが、これで大体絞れる」

「……ってことは、父様、シンクさん、ニルギム、キームさんが怪しいってこと?」

「そうだね。その上で、複数班の可能性もあるってのが今回わかった。これらの人物を手当たり次第調べていくことが、解決への糸口になると思う」


 ルフナが踵を返しながら言った。


「今夜はここで休んで、明日から、プリスウェールドの方角へ戻ろう」


 わたしたちはメリケルさんにお礼を言って、教会を後にした。


 今回メリケルさんに診てもらったことで判明したことがいくつもあった。

 そのお陰か、心当たりのような……引っかかりができていた。


 わたしにかかっている呪法――。なんだかチグハグな掟――。

 副次的に絡まってしまったらしい紐は、わたしの中で少しずつ解けていっている。


 ひとまずの当面の目標としてはプリスウェールドへ向かい、犯人の可能性がある人物の周辺調査と、遠征先の遺跡で採取したはずの大量魔石の確保だ。


 問題が大きくなってしまっているような気がするけれど……。

 だ、大丈夫かな……わたし。

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