第2話 荒野の試練
旅を再開して数日が過ぎ、ジョージとルークは順調に北を目指していた。広大な荒野の中での生活は、ルークにとって少しずつ馴染みつつあったが、まだ慣れないことも多い。ジョージの指導のもと、牛たちの扱いに慣れるよう努めていたが、その体力と気力はすでに限界に近づいていた。
その日の昼頃、ジョージはルークを呼び寄せ、指差して遠くの地平線を見せた。
「見ろ、あそこに雲があるだろう?あれは嵐の兆しだ。今日は早めに休息をとって、しっかり準備しよう。牛たちが怖がると、暴れ出して手に負えなくなる。」
ルークは頷きながら、荒野に浮かぶ不穏な雲をじっと見つめた。これまで穏やかな天候が続いていたが、自然が相手となるこの旅には、まだまだ想像もつかない試練が待っている。ジョージの言葉通り、準備を整えるべく早めに野営地を作ることにした。
午後遅く、雲が厚みを増し始め、風が一気に冷たくなった。牛たちも何かを察したのか、落ち着かない様子で低く鳴き声を上げていた。ルークはその音に不安を覚えながら、ジョージの指示に従い、牛たちを囲むように縄を張り、風から身を守る準備を進めた。
「ジョージさん、これで大丈夫かな?」
「大丈夫だ、しっかりやっている。だが、風が強くなったら、すぐに牛たちを押さえに行くぞ。」
嵐が本格的に近づいてきたとき、風は凄まじい勢いで吹き始め、地面から砂が舞い上がり、視界を遮る。ジョージは帽子を深くかぶり、ルークの肩を強く叩いて叫んだ。
「おい、ルーク!牛たちを見張っていろ!暴れ出したら危険だ!」
ルークは怯えた表情を見せたが、歯を食いしばって立ち上がり、牛たちを見守った。嵐の中で牛たちが暴れ出すと、すぐに大きな混乱が生まれることは彼にも理解できた。
数時間後、嵐が徐々に収まってきた頃、ジョージはルークの隣に立って状況を確認した。
「よく持ちこたえたな、ルーク。牛も無事だ。嵐が完全に去るまで、もう少し辛抱だ。」
ルークは疲れ切っていたが、ジョージの言葉に少しほっとしたように頷いた。自然の猛威にさらされながらも、無事に過ごせたことは、彼にとって少しずつ自信を与える経験となった。
その夜、嵐が完全に去り、再び静けさが荒野に戻ってきた。焚き火を囲んで夕食を取る中、ジョージはふと遠くの空を見上げながら語りかけた。
「この荒野では何が起きるか分からない。だが、こうして乗り越えていくことで少しずつ強くなるんだ。」
ルークはその言葉を噛み締めながら、初めての大きな試練を乗り越えた安堵感に浸っていた。
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翌朝、ジョージとルークは早めに起き、荒野を後にして再び旅を進めることにした。嵐の痕跡がまだ残る大地を牛たちと共に歩みながら、二人の間にわずかな静寂が続いていた。空は澄み渡り、太陽の光が地平線を照らす。だが、荒野の旅はまだ終わりではなかった。
「ルーク、少し休んでいこうか。」ジョージはふと足を止め、ルークに声をかけた。
二人は広がる大地を見渡せる小さな丘の上に座り、しばしの休息を取ることにした。風が心地よく吹き抜け、静かな時間が流れる。だが、その時、遠くの方から何かが近づいてくる音が聞こえた。
「なんだ?」ジョージは眉をひそめ、音のする方向に目をやった。
やがて、馬に乗った数人の男たちが彼らの前に現れた。荒くれ者たちで、見た目からして危険な雰囲気を漂わせていた。リーダー格と思われる男がジョージたちに近づき、冷たい目で彼らを見下ろした。
「おい、あんたらどこに向かってるんだ?」リーダーは無愛想な声で尋ねた。
ジョージは慎重に答えた。「カンザスへ。牛を連れていくんだ。」
リーダーはしばらくジョージを睨みつけた後、笑い声を上げた。「ふん、そうか。俺たちも同じ方向だな。牛を預かってやろうか?」
その言葉には悪意が込められており、彼らの意図が明白だった。荒野では盗賊まがいの連中が旅人を襲うことも珍しくはない。ジョージは相手の出方を見ながら、静かにルークに目配せした。ルークは怯えた様子だったが、ジョージの意図を察して身を引いた。
「その必要はない。我々は自分たちで牛を連れて行ける。だが、道を譲ってくれ。」
ジョージの言葉に、リーダーは再び笑い声を上げた。「そうか、そうか。だが、もし困ったことがあれば、俺たちに声をかけな。」
そのまま彼らは馬を走らせ、ジョージたちの脇を通り過ぎていった。だが、彼らが完全に去った後も、ジョージは気を緩めることなく、ルークに注意を促した。
「気をつけろ、ルーク。あいつらがまた来るかもしれない。」
ルークは頷き、再び牛たちと共に歩き始めたが、先ほどの一件で不安が消えないままだった。荒野には数々の危険が潜んでいる。自然だけではなく、人間の危険もまた、二人の旅を脅かすものだった。
日は徐々に傾き始め、夜が迫る中、二人は慎重に牛たちを守りながら進んだ。この荒れ果てた道がどれほどの試練を彼らに課すのか、まだ誰にも分からなかった。
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