フーズ・イット・ユー・カット?
今は俺を殺そうとしている奴らから逃げているところだ。
月末金曜のパブ街は頭痛に響くような悲鳴で溢れている。
下品なニヤケ顔が素顔に張り付いた下衆どもで溢れかえっている。
でもパブ街にはいいところだってある。例えば・・・やっぱ無いな。ゲロや生ゴミの臭いでどんよりとした空気の悪さとかが特に最悪。
今の俺の願いはただ1つ。無事に帰ること。そして一刻も早くこの場を離れることだ。
俺は今夜だけで3人の男を切り殺した。この悪趣味な路地裏に迷い混んでしまった女に執拗に言い寄っていたからだ。俺が男どもに素手で触れると、そいつらはすっかり消えてしまった。
悪漢どもの姿は幻覚だ。俺は現実と妄想の区別が付かなくても不思議ではないくらいに酔っ払っていた。
切られた男たちの断末魔を聞いた仲間が助けに来たらしい。俺は手袋を付けて女を背負ってから全速力で走り出した。がっしりと俺の背中にしがみついている女の頬が、俺の後ろ首に触れていて暖かかった。
俺はトップスピードなら100mを2秒で走り切れる。時速60kmで走ることができれば、車で追われようとも中々追い付かれないだろう。人の足は車に比べて小回りの利きが段違いに良いはずだからだ。俺はパブ街からかなり離れた高級ホテルの前で女を降ろした。
「あ、あの、助けてくださって、ありがとうございました!」
「別に、感謝されるようなことはしてない。」
俺は手袋を外した。そして小切手に俺の知り合いの金持ちの名前を漢字でサインした。1ヶ月宿泊しても余るくらいの金額だ。この程度ならあいつは気にもしないだろう。
「困ります。こんなの、要りません。」
俺にはその女の言葉が聞こえなかった。それじゃ。と背中越しに別れの挨拶をして、女の手に小切手を押し付けたまま、走り去った。
その後、その女がどうなったのかは知らない。
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