第37話 自己中なクズ男は徹底的にざまぁされ、立ち直れなくなる。

 ――数分前、浩介たちが泊っている宿泊施設。


 その人目の付かない薄暗い通路で、阿島 義男は平井 宗大に呼び出されていた。


「おいオッサンふざけんなよ。本当なら今日のレクで俺は未来からベタ惚れされるはずだったのに、お前が俺に見せる問題の答えを間違えたせいで……作戦を成功させるどころか恥をかいただろうがッ!」


 宗大はその辺にあるゴミ箱に座って足を組み、阿島を見下すように睨みつける。


(ふんっ、俺はコイツの弱みを握ってる……いくら教師だからって絶対に逆らえないのさ)


 しかしそんな宗大の余裕ぶった心境とは裏腹に、阿島の反応は予想外のものだった。


「そうだろうね。私は君の不正行為を防ぐために、あえて別の答えを見せておいたのだから」


「は……?」


 宗大は唖然とした表情を浮かべる。しかしやがてそれは、醜悪な笑みへと移り変わっていった。


「……お~いおい、まじかよ……アッハハハハハ! オッサン、おまえ自分の立場わかってんの? わかってそんなこと言っちゃってんの? もし俺に逆らったら、あのことをバラすって言ったよなぁ……? そうしたらお前の教師としての立場は――」


「するなら勝手にすればいい! 私はもう、保身のために自分の本当の気持ちを誤魔化すのは辞めにしたんだ……!」


「なっ……!?」


(そうだ、私はもう決心したんだ! あの男――霧谷 コウのように。彼が一切周りの空気に流されず、ネット上で榎島 アカネや朝日奈 コナツを救ったときのように……私も自分の信念を貫いて生きると……!)


 阿島は堂々と宗大の前を通りすぎると、宿泊施設の外へと歩いて行った。


(待っていてくれ。必ず私が、あの悪魔のような女から君を守るよ)


 先ほど見つけた麗奈と真知子を追いかけるために――


 ◇


 一方で、その場に取り残された宗大は呆気にとられたようにぼうっと阿島の後ろ姿を眺めていた。


 しかしやがて怒りが込み上げて来たのか、地面を強く蹴りつけながら大股で歩き始める。


「クソがッ、クソガぁっ!」


 しかしそのとき……。


「あんた、レクのときそんなくだらないことしてたわけ?」


「……!?」


 声のした方を見ると、まさに先ほどの阿島とのやり取りを宗大が一番見られたくなかった美女が壁に寄りかかり、腕を組んでいた。


 薄暗いこの通路でもわかる、明るい金髪のミディアムヘア。ややつり上がり気味の瞳をした美人顔。彼が狙っている星川 未来だ。


「まっ、待ってくれ……未来? これはそのっ、違うんだ……!」


 無様にそんなことを言って取り繕うとする宗大。しかしもう明らかに動揺して違うしか言えないその様子が、何も違くないことを証明していた。


「言っとくけど、アンタみたいなクズがどんだけ小賢しい真似したとこで絶対惚れないどころか、一切興味持つことないから。金輪際アタシに近づかないで」


「……ッ!!」


 それだけ言うと、未来は宗大には一切興味がないとでもいうように寄りかかっていた壁から離れ、歩き始める。


(ふふっ、こっそり彼に会いに行っちゃおっかな♪)


 そして彼女の頭の中には、今日ついにリアルで見つけることが出来た大好きな人――霧谷 コウのことしかないのだった。


「そんな……俺が……」


 一方、宗大はその場にへたり込み、もう立ち上がる余力も残っていなかった。

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