第35話 夜、行方不明になった麗奈をみんなで探す。

「……まだこんな時間か……」


 その夜、浩介はすでに消灯した自分たちの部屋で目を覚ました。


 時計を見ると時刻は夜の11時を回ったところ。彼の体感ではかなり眠っていた感覚だが、まだ消灯時間から数時間しか経っていなかったのだ。


 色々なことがあったため、体が疲れているのかもしれない。喉がカラカラな浩介は枕もとに置いておいた水のペットボトルに手を伸ばす。しかし……。


(ぬるっ……しかももうほとんど残ってないや。自販機に飲み物でも買いに行くか)


 彼は起き上がると身だしなみを整え、財布を手に部屋を出るとエントランスに設置されている自販機に向かった。


 部屋では拓海がぐっすりと寝息を立てて眠っていた。なぜか清孝は見当たらなかったが……彼も飲み物を買いに出たのだろうか。


(神条くんのことだしみんなが眠っている間に組織と戦って俺たちを守ってたりとか……いや、さすがにそんなセカイ系みたいな展開現実でないか)


 そんなことを思いながら自販機に向かう浩介。


(もし見回りをしてる先生に見つかったら何か言われるかもしれないけど……どうしても喉が渇いたって正直に話せばなんとかなるか)


――ガコンっ!


 と、自販機から出て来たお茶を手に取ると、浩介はそれを煽るように喉に流し込んだ。


 ゴキュっ、ゴキュっ……激しい音と共に潤いが喉へと流れ込んでいく。


「ふぅ……生き返った」


 と、今度こそ飲み物を切らさないようにもう一本お茶を購入して部屋に戻ろうとしたときのことだ。


「あっ……コウくんっ!」


 なぜか朱音が息を切らしながら近づいて来た。


(まさか……)


「朱音も飲み物切らしたの?」


「……飲み物?」


 浩介は朱音が自分と同じく喉が渇いて倒れそうになったのかと考えてそんな質問をしたが、彼女は首をかしげるだけだった。どうやら違ったらしい。


「わたしね、夜は飲み物切らさないように2リットルのペットボトル枕元に置いてるの」


「おぉっ、本格的……!」


「って、そうじゃなくて大変なの。麗奈ちゃん見なかった? 目が覚めたらいなくなってて……」


「えっ、小笠原さんが? 俺は今のところ見てないけど……」


 朱音の話を聞くと、どうやら麗奈はもう1時間近く部屋に戻って来ていないようだった。おかしいと思った朱音と美緒は手分けして宿泊施設の探索を始めたらしい。


「わたし今日一日で、もしかしたら麗奈ちゃんの嫌なことしちゃったかな。いくらいい胸だからって、お風呂であんなこともしちゃって……」


「えっ……」


(お風呂で一体何をしたんだ……まぁ、なんにせよ)


 浩介はうつむいてしまった朱音の肩をポンと優しく叩いた。


「朱音は今日一日、小笠原さんがグループで楽しめるようにたくさん話しかけてたでしょ? 小笠原さんもすごく嬉しそうだった。だから、きっと嫌な思いをしてるなんてことはないよ」


「コウくん……うん、ありがとう。ちょっと元気出てきた。……あのさ、迷惑じゃなければ、麗奈ちゃん探すの手伝ってもらえるかな?」


「もちろんだよ」


 それから浩介と朱音は2人で宿泊施設内の探索を始めた。


(もし俺の予想が正しければ……まずいかもしれない。早く見つけ出さないと……レイ、待っててくれ)


 ◇


(麗奈ちゃん、ほんとにどこ行っちゃったの……?)


 一方で、小夏 美緒も1人で宿泊施設内を探索していた。


(ここなんか暗いし、もし誰かに見つかったら……)


 ちょうどそんなことを考えて不安になっていたときのことだ。


「きゃあっ!」


 急に両側からを掴まれた。かと思うと、彼女の腕を両側から掴んできた何者かは力を加えて美緒を動けないように押さえつける。


「いやっ! 離して……」


 抵抗しながら襲い掛かって来た人物の正体を掴むべく目を凝らす。すると、両側に一人ずつ男が彼女の腕を掴んでいるのがわかった。顔まではハッキリと見えない。


 やがて目の前にもう一人の男が迫って来るのを感じる。


「ひひひっ、やっと捕まえたぜ美緒ちゃんよぉ……班決めのときはよくもこの俺たちに恥をかかせてくれたなぁ」


 そう言って顔を近づけて来るのは同じクラスの熊田 豪弥だった。


 彼ら3人はこのキャンプの間に全く女子たちとの接触が出来ず、さらにはクラスメイト達からも白い目で見られていることで鬱々とした時間を過ごしていた。


 夜、我慢できなくなった彼らは施設内をウロウロしていると、偶然にも麗奈を探している最中の美緒を見つけてしまったのだ。


 彼はゆっくりと美緒の方へと腕を伸ばしてくる。暗い空間なため探り探り手を動かす。


「いやっ、やめてっ!」


「お~い、豪弥。お前ばっかり楽しんでないで俺にも楽しませてくれよぉ」


「俺も俺も、早く美緒ちゃんのエッチな太もも触りて~」


「まぁ待てって、どうせこんな時間誰も来ねぇんだからゆっくりと楽しまなきゃなぁ」


(もう、嫌。助けて……)


 美緒がそう心の中でつぶやき、体を震わせたときのことだ。


「待てよ」


 響いた声と共に、全員の動きが止まった。その声で美緒には正体がすぐに分かった。彼女が一番頼りにしている男、新崎 浩介の声だ。隣には朱音も居た。


「あぁっ!? またお前かよ新崎。けど今度こそ邪魔させないぜ。今お前が余計なことをしたらこいつはどうなるかなぁ……」


 豪弥がニチャァっっと気色の悪い笑みを浮かべ、美緒の腕を強くつかんだ。


「いやっ……」


「ひひひっ。新崎、今の俺は本気だぜ? 今日一日お前のせいで鬱憤が溜まってたんだ」


「くそっ……」


 美緒を人質に取られ、浩介は動きを止めてしまう。しかしその次の瞬間――


「グはぁっ!」


 豪弥は顔面を思い切り蹴り飛ばされ、突き飛ばされた。


「ぐあっ!」

「うあぁっ!」


 さらに取り巻き2人もバタバタと倒れ始める。


「くそがぁっ! あんだテメェ!!」


 豪弥が顔を上げると、そこには見覚えのある眼鏡の太った男子生徒がいた。


「悪い、遅くなったな浩介」


「神条くん……!?」


(なんか急に登場した上にいきなり名前で呼んできたぞ……! まぁ、なんにせよ助かったけど)


 浩介すら呆然とし、誰もが状況を把握できない中、神条 清孝は美緒に向かって言う。


「さぁ、早くアイツらと行くんだ。ここは、俺が食い止める……!!!」


「あ、ありがとう……」


 美緒は清孝が立ちふさがったことにより、無事浩介たちと合流することに成功した。


「さぁ、ここは任せて先に行け、浩介」


「あ、ありがとう神条くん……その、無理しないで。」


「任せな。それと、別にこいつら、倒してしまっても構わないのだろう?」


「ま、まぁ……問題にならない程度になら」


「ふっ、任せろ」


(熱い展開きちゃこれぇ……! ココは任せて先に行けってやつ、一回言ってみたかったんだよ)


 常に何を考えているのかわからない中二病の神条 清孝だが、心の中ではそんなことを考える1人のオタクだった。


 

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