第32話 謎解き脱出ゲーム。
浩介たちが宿泊先で謎とき脱出ゲームを開始していた頃――
浩介の自宅の一室では、妹の亜衣佳が配信をしていた。
「みんな遊びに来てくれてありがと~! 明日までお兄ちゃんが不在だから、今日はファンであり妹のわたしが、お兄ちゃんの曲を歌っていきたいと思いまーす!」
『~♪~!~♪ ~♪~!~♪』
爽快でスピード感のあるイントロが流れる。霧谷 コウが1作目に投稿した楽曲で、キャッチーであり勢いのある曲調は1曲目にぴったりだ!
<コメント>
・うおおおおお!
・霧谷 コウのデビュー曲!
・ついに妹ちゃんカバーきちゃあああぁぁ!
すでに霧谷 アイは霧谷 コウ公認の妹系VTuberとして多くの視聴者から認知されている。
しかし今まで霧谷 アイがコウの楽曲をカバーしていたことはなかった。そのため兄妹共通のリスナーたちのボルテージは開幕から上がりまくりだった。
◇
(そろそろ亜衣佳の配信が始まる時間か……今日は俺が不在の間、俺の曲を全曲歌う歌枠をやるって言ってたからな。正直気になって仕方がないが、帰ったらゆっくりアーカイブで見させてもらうとしよう)
そんなことを考えながらも、浩介はひとまずゲームに集中することにする。
「なっ、なんだこれ……いきなり問題が見つからない」
浩介と同じグループの男子が呟く。
グループ内でそれぞれに自己紹介を終え、レクリエーション開始の合図が放送されたものの、そもそも彼らは第一問目の問題を見つけられずにいた。
「ひ、平井くん……もしかして僕たちの班、アクシデントが起こってるんじゃ……」
また別の男子生徒が不安になったのか、企画の主である平井 宗大に問いかける。
「いや、今回のレクを準備してくれた引率の上級生たちから準備は万全に行われたと聞いている……つまり、問題はどこかに隠れ居てるはずさ。まぁ、もちろん企画主の俺もその内容までは知らない訳だけど」
(な~んちゃって全部知ってまーすwww 阿島のオッサンから答えは全部俺に筒抜けなのさ)
宗大は男子生徒に返答しながら、心の中ではほくそ笑んでいる。
「ねぇ、コウ。問題どこにあるかわかる……?」
星川 未来が浩介の服をクイクイと引っ張りながら問いかけてくる。
「そうだね……俺の予想なんだけど――」
と、浩介が歩き始めたタイミングで急に宗大が割り込んできた。
「いやいや未来、そんな陰キャくさいヤツの推理なんか当てにならないよ。それより俺、閃いちゃったからさ」
宗大はカッコつけて未来にウインクをする。そして、彼は今現在このグループが身を置いている部屋の扉を開く。
「この扉の裏とかに、問題が仕掛けられてるんじゃないかなってさ……」
(くっくっくっ! 俺様の第一の見せ場きたーーー! 俺は答えを知ってるんだよ。新崎 浩介ざまぁ! お前に未来はふさわしくないのさ)
ゆっくりとしたキザな仕草で、宗大は部屋の扉を開く。
しかし、彼が開いた扉には何の仕掛けもされていなかった。
「はっ……?」
「なんもないじゃん、散々カッコつけてたくせにダッサ」
さらに未来にはそんな風にバカにされてしまう。
(くそっ……! ふざけんな! 阿島のオッサン、俺に見せる答え、他のグループのと間違えやがったな! あの無能があぁぁ!!)
宗大は心の中でそんな風に叫ぶがもう遅い。完全に場の空気は白けている。
「でさ、コウの予想聞かせてよ」
しかも未来は宗大のことなど一切興味ないと言うように、すぐに再び浩介に話しかける。
「えっと、俺の予想は……」
と、調子を取り直した浩介は部屋に設置されたスイッチを押して電気を消した。部屋が真っ暗になる。
「おいっ、なにやってんだ! そんなことしたら何も見えなく……」
と、そこまで言って宗大も気が付いた。真っ暗になった天井に、光の文字で問題が映し出されていた。
つまり1問目は、部屋の電気を消すことで問題が浮かび上がる仕組みになっていたのだ。
「ふふっ、さすがコウね。謎ときとか得意なの?」
「得意って程じゃないけど……ちょっと経験があって」
浩介はVTuberとしての活動の中で謎解き系のゲームの実況をしたり、TRPG、マーダーミステリーといったジャンルの企画に参加していた。そのためこういった問題で頭を柔らかくして機転を利かせることは得意なのだ。
(くそっ、くそおおおぉぉ!)
宗大は未来がコウのことをべた褒めするのを指をくわえて見ていることしかできなかった。
◇
一方で、とあるグループでは……。
「ふっ、ヒントを見るまでもない……正解の扉はこっちだな」
そう言って太った眼鏡の男子生徒はひとつの扉を恐れる様子もなく進んでいく。
「正解でーす! ここにたどり着いたのはあなたたちのグループが一番だよ~」
引率の上級生である女子生徒が彼らを褒めたたえる。
「なっ、なんなんだあのデブ……閃きが強すぎる!」
「全然俺たちの出番がねぇ……!」
神条 清孝がグループのメンバーたちを差し置いて完全にひとりで無双していた。
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