第31話 新たなヒロインの登場。そして性格最悪な男子生徒はざまぁされる!

 バーベキューも終わり、夜になった。


 これからレクリエーションなるものが行われるようで、学年全体で集合している。


 どうやらこのキャンプ場を使って謎解き脱出ゲームのようなものが行われるらしい。


「――と、内容は今説明した通りだ。ちなみに今このキャンプ場には、俺たち以外にも利用している他校の生徒たちがいるから、迷惑が掛からないように注意してくれ!」


 現在1年生全体の前に立ち、レクの内容を話しているのは浩介たちの隣のクラスである1年2組の平井ひらい 宗大そうだいという男子生徒らしい。


 いかにもTHE・陽キャという感じの生徒だ。


「それじゃあ今からグループ分けだ。グループは全クラス混合でランダムに6人~7人となる。みんな、自分の持ってるパンフレットの最後のページを見てくれ! そこに記載されている番号が君のグループだ!」


 浩介は朝、バスの中で阿島から配られたパンフレットの最後のページを開く。すると下の方にさりげなく7と書かれていた。


(なるほど、みんな配られたパンフレットの番号が違うのか。随分と手が込んでるな)


 と、ふいに服の裾がクイクイと引っ張られた。


「コウさん、何番?」


 隣に体育座りをした美緒が浩介のパンフレットをのぞき込んでくる。


「俺は7番だったよ」


「うぅ……」


 どうやら違うグループだったらしい、美緒は顔を膝にうずめてしまう。浩介は落ち込んでしまった彼女の肩をポンポンと優しくなでた。


「わたしも別のグループみたいです……残念ですけど」


「わたしもだぁ……あぁ~美緒ちゃんと麗奈ちゃんも別グループ……」


 どうやら麗奈と朱音も違うグループらしい。ちなみに拓海と清孝も別グループだった。


「それじゃあ準備が出来た人から自分の番号の旗が立っているエリアに移動してくれ! 全員そろったらゲーム開始だ!」


 平井の掛け声を合図に浩介も移動を開始する。


(7番は……あそこか)


 浩介が自分のグループのエリアにたどり着くと、すでに数人の生徒が集まっていた。


 そこには金髪の女子生徒が1人と……共通して地味な雰囲気の男子生徒3人がいた。


 男子生徒3人は、みな金髪の女子生徒の方を見てひそひそと会話を交したり、ブツブツ独り言を言ったりしている。美人だとかおっぱいでけーとか太ももエロいとか。


 聞こえているのかいないのか、金髪の女子生徒は不機嫌そうに椅子に脚を組んで座っている。


(あれ、この人……バーベキューのときに見たような)


 浩介はバーベキュー中に視線を感じたことを思い出す。


「ええと、7番ってここであってるかな」


 浩介はこのエリアにいる生徒達に問いかける。


 いかにも陰キャって感じの男子生徒3人は目を伏せて何も答えてくれない。しかし先程まで誰にも話しかけようとしなかった金髪の女子生徒が立ち上がると浩介に近づいて来た。ウェーブのかかったミディアムヘアが揺れる。


「あってるよ。ねぇ、きみ名前は?」


「あぁ、俺は新崎 浩介だよ……よろしくね」


「……!! ふぅーん、浩介くんか……ふふっ、って呼んでいい?」


 その女子生徒は吊り上がり気味の瞳をパチパチと瞬かせた後、なぜかそんなことを言って微笑みかけて来た。


「えっ! い、いいよ……」


「ふふっ、やった。アタシは星川ほしかわ 未来みらい、よろしくね!」


 それからなぜか未来は、浩介に色々と話しかけ続けて来た。


 ◇


(くっくっくっ……どうだったよ俺の完璧な司会は。未来のやつもこれでこの俺に惚れちゃうに決まってるぜ!)


 生徒達がそれぞれのグループへと向かって動き始めた後、先程まで学年全体の前に立って説明をしていた平井 宗大はほくそ笑んでいた。


 今回の謎解き脱出ゲーム、新入生の親交を深めるためのイベントなどと謳われているが、真相は全て企画主のこの男、平井 宗大の承認欲求を満たし、彼と同じクラスだがいつもツンツンしていて全然宗大になびかない星川 未来を惚れされるためだけに生まれたものだ。


(俺と同じ7番が書かれたパンフレットは未来と、いかにも目立たなそうな陰キャだけで構成されるようになっている。阿島のオッサンに圧をかけてパンフレットを配らせたら楽勝だったぜ)


 本日の朝、阿島は遅刻してバスに乗り込んできたが、実は宗大に利用されて他クラスのパンフレットも配らされていたのだ。すべて宗大が仕組んだ通りの生徒に7番のパンフレットがいきわたるように。


(そんで、謎解きの答えも俺は全部盗み見たから知ってる。クソ陰キャたちの中で唯一イケメンでカッコいい男子のオ・レ☆ この夜の舞台でこの俺様だけが活躍して、未来も惚れちまうってわけよ!! っひひひひっ、考えただけで笑い止まんね~)


 とはいえ本性を少しでも周りに見られるわけにはいかない。宗大は笑いを押し殺しながら自分のグループのエリアへと向かった。


 そして、彼は一切予想していなかった光景に唖然とした。


「は? なんでだよ……」


 宗大がたどり着くと、すでにそのエリアではいつもツンツンしている未来が1人の男子生徒と楽しそうに談笑していた。


 宗大は知らないが、もちろんその男子生徒とは新崎 浩介である。


 そして星川 未来の正体は、浩介が書籍化の際にイラストを担当したイラストレーターの月宮 ミラなのだ。


 ◇


(浩介くん……いや、霧谷 コウ。こんなところでも私は君に任せっぱなしですまないね。けれど私は信じているよ。君なら絶対にあの平井 宗大にも負けないと。だからこそ、私は君にその7番を渡したのだから!)


 生徒達がそれぞれに動き出した後、宗大に弱みを握られている阿島 義男は浩介の後ろ姿を眺めながら、そんなことを心の中でつぶやいていた。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る