第20話 美緒の高校生活が始まる。

 本日は美緒が初めての登校となったため、朝のホームルームで彼女の紹介が行われた。


 担任の阿島 義男の隣に立っている美緒に、浩介は心の中で声援を送った。それに気が付いたのか、視線が合うと彼女は浩介に微笑んできた。


「えー、小夏 美緒さんは中学でいじめを受けていたそうで、それが原因で不登校になってしまったんですな。なのでみなさん、高校ではそういうことをしないようにお願いしますよ」


 阿島の言葉に、教室内がざわざわと騒がしくなる。


 阿島先生さぁ……と思った瞬間だった。


 美緒は今日、阿島先生に今まで高校に来れなかった理由を話した。しかし同時に、デリケートな問題なのでクラスメイトには知られたくないと話していたのだ。


 それを一緒に登校した浩介も聞いていた。


(おいおい! せっかくコナツがトラウマから立ち直ったって言うのに先生が掘り返すなよ!)


 しかしそんな浩介の心配とは裏腹に、美緒は堂々と自己紹介を始める。


「小夏 美緒です。確かに中学ではそういうことがあって……これまで登校できないでいました。けど、もう大丈夫。みなさんよろしくお願いしますっ!」


――パチパチパチパチ!


 教室中に拍手が巻き起こる。


 浩介は安堵すると同時に驚いていた。


 教壇に立つ、小夏 美緒に重なって朝日奈 コナツを見た気がした。彼女はバーチャルの世界の自分を、リアルとは違う理想の自分と表現していた。


 しかし……きっと今の小夏 美緒にとって朝日奈 コナツは彼女そのものになりつつあるのかもしれない。


「小夏さんよろしくね~、いっぱい仲良くしてくれたら嬉しいよ」


 美緒の自己紹介を支えるように声が上がる。美鏡 朱音だった。


「よろしくね~」


「一緒に頑張ろー!」


 彼女の言葉を皮切りに、他の生徒たちも美緒に暖かい言葉を送り始める。


 まるで空気が悪くなった彼女の配信を浩介が助けたときのようだった。


「てか、阿島先生デリカシーなさすぎだし」


「ほんとほんと、美緒ちゃん気にしなくていいよ~」


 一方で、デリカシーのない発言をした担任の阿島はクラスの女子たちから集中砲火されてしまう。


「あ、いや、私はただ本当のことを言っただけで……それにいじめはいけないですからな、ここは担任である私がビシッと言っておこうかと……」


 言い訳を並べるが逆効果となり、それからも阿島は禿げ上がった頭をかきながら生徒たちのブーイングの嵐に冷や汗を流すしかなかったのだった。


 

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