第13話 美人なギャル妹の様子がおかしくなった……。
「今までで一番楽しい配信だった……」
すべてのアカウントを連携して初めての配信を終え、浩介は放心状態で椅子にもたれかかっていた。
配信しているときはただただ夢中だ。それが配信を切って終わった瞬間、余韻と共に楽しかったシーンが頭の中でリフレインするように溢れ出てくる。その感覚はいつだって爽快だった。
「お腹空いたな……そろそろお昼か。母さんがご飯用意してくれてるかもな」
浩介はそんなことを呟きながら椅子から立ち上がった。配信後はどうしても独り言が多くなる。
部屋の扉を開け、廊下に出たときのことだ。
「…………♡♡♡」
妹がいた。しかも自室から半分だけ顔を出して、なぜか頬を赤らめている。明らかに挙動が不審だった。
(まさか……)
配信を終えた直後だったこともあり、浩介はなにかを予感した。
「お兄ちゃんって、霧谷 コウなの……?」
(やっぱりかぁ)
VTuberとしてのアカウントを他のアカウントと関連付けたら、いずれこういうことも起りうるだろうと予想していた。
しかしこんなにも早く、しかも妹が見ていたとは浩介も驚きだ。
「そうだよ、知ってくれてたんだ」
とはいえ隠しても仕方がないので彼は本当のことを言うことにした。
「多分aiさんだよね? ずっと応援しててくれてありがとう」
「うひゃあああぁぁぁ! 認知されてる!」
妹は真っ赤に染まった頬を両手で押さえる。かと思ったら浩介に飛びつき、両手両足でがっちりホールドして来た。
「ちょっ……」
「アイカ、霧谷 コウが初恋の人なの。霧谷 コウと結婚するんだ♡」
「いや結婚はできないぞ!?」
この妹、兄の贔屓目を差し引いてもかなりの美人である。
ウェーブのかかった金髪のロングヘアをサイドテールにしている、いわゆるギャルだ。今もへそ出しの黒インナーに白のデニムショートパンツ。中学生にしては発育もよく、浩介の体に触れている健康的な太ももは肉感的だ。
いくら実の妹と言えど、こんな風に抱き着かれたら大変なことである。それも最近まで互いに距離を感じていただけに、心臓はバクバクだ。
その後、妹はリビングでもべったりくっついて来るようになった。
「あの、亜衣佳……? 食べづらいんだけど」
「えっへへぇ……♡♡♡」
食事中もずっとこんな感じだ。
「あらあら~」
そんな彼らの様子を見た母親の
この母親もまた美人で、決して40代とは思えないほど若々しい。いつも開いてるのか閉じてるのかよくわからない細い目でニコニコしている、いわゆる糸目お姉さんである。
母親に暖かい目で見られながらもなんとか食事を終え、彼らは一緒に自室がある2階へと上がる。
そしてそれぞれの自室に入ろうとしたとき、妹がなにかを決心したように浩介を見て言った。
「霧谷 コウと結婚できないなら、せめてバーチャルの世界でも妹になる!」
「えっ……!」
数日後、霧谷 コウの妹を名乗る霧谷 アイというVTuberが現れたという……。
最近急上昇に載ったりと注目の的であるコウ本人が配信で公認したこともあり、妹系ライバーとして彼女もまた注目を集めることになる。
#
霧谷 アイの初配信は、兄である霧谷 コウを呼んでのオフコラボとなった。
その配信が行われている家の一室で、美人な糸目お姉さんはパソコンの前でひとり両手のサイリウムを振っていた。
「コウちゃん! アイちゃん! がんばえ~」
ちなみにこの母親、ちゃっかり霧谷 コウの初配信も見てた上に、彼の楽曲も小説も全て最初から追っている最古参勢である。
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