第10話 隣の席の美少女が、俺の書いているWeb小説を読んでるんだが?

 今日も浩介は電車で登校する。


 駅から高校まではスクールバスで移動。学校内の駐車場で降車し、校舎へと向かっているときのことだ。


「コウ君、おはよ~」


 振り返ると朱音が片手を振りながら自転車を近づけて来た。短いスカートと、ウェーブのかかった茶髪のポニーテールが揺れる。


 浩介の隣に来ると身軽に自転車から飛び降り、自転車を押して歩き始めた。


「おはよう。新曲かなり反応いいよ、今回も最高のイラストありがとう」


「えへへぇ、よかった~」


 朱音はこれ以上ないというくらい嬉しそうにふにゃ~っと笑う。


 話をしながら朱音が駐輪場に自転車を停めるのに付き添い、浩介は2人で教室へと向かった。


 教室に入ると席が離れているため、朱音とは一度別れる。


 浩介が机にカバンを置き、椅子を引こうとしたときのことだ。ふと視界に入ってしまった。


 隣の席に座る美少女、小笠原 麗奈がスマートフォンでWeb小説を読んでいる。そして彼女が読んでいる作品のタイトルに気が付く。


 見間違えるはずもなかった。なぜならそれは浩介自身が執筆して投稿している作品なのだから。


(マジか……こんな近くに読者がいるとは。それも女性読者……本当にいるんだ)


 浩介が書いているのはバトル系の現代ファンタジーで、読者層は比較的男性が多い。


 男性読者に受けるよう、美少女キャラとの恋愛展開やエロ要素も多くしているため、女性が読んでいるというのは想像が難しかった。


 それも隣の席の、美人な女子高生が……。


「……? 新崎くん、どうかしました?」


 浩介はあまりの衝撃に気が付けばついぼーっと立っていた。不思議に思ったのか麗奈が話かけてくる。


 隣の席ということもあり、彼女とはこのようなちょっとした会話を交す仲になっていた。


「あっ、いや……なんでもないよ」


 我に返った浩介は椅子に座り、スマートフォンを取り出した。


 麗奈が読んでいるのを見て、自分も読む予定の作品があったことを思い出す。


 同期のWeb作家仲間である雪凪 レイの小説が今日の朝更新されていたのだ。


 #


 次の授業は移動教室だ。


 しかし、どこの教室だったかを忘れてしまった小笠原 麗奈は隣の席の新崎 浩介に聞こうかと様子をうかがう。


 麗奈はこのクラスに気軽に話せる相手がおらず、浩介が最も話しかけやすい相手だった。


 問いかけようと思い、立ち上がったときのことだ。彼が見ているスマートフォンの画面が視界に入ってしまった。


(え……新崎くんが私の小説読んでる)


 見間違えるはずもなかった。なぜなら彼女自身が昨晩何度も推敲を重ねて今日の朝投稿した作品なのだから。


(男性読者本当にいるんだ……しかもこんな身近に)


 麗奈が書いているのは恋愛系の異世界ファンタジーで、比較的女性読者が多い。


 女性受けを意識しているため、男性キャラとの恋愛がメインだし、男キャラのセクシーシーンもある。


「小笠原さん……? 何かあった?」


 あまりの衝撃に麗奈はぼうっとつっ立ってしまっていた。我に返った彼女は取り繕うように咳ばらいをする。


「いえ……なんでも。新崎くん、次の授業は移動教室でしたよね? 私、教室忘れてしまって」


「あぁ、そう言えば移動教室だったっけ。俺も教室の場所よく覚えてないから一緒に行こうよ」


 そうして、2人は共に特別教室に向かうことになった。


 お互いが、ネット上で付き合いの長い作家仲間である霧谷 コウと雪凪 レイであるということには気付かずに――

 

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