第8話 美少女の家にプリントを届ける②

 インターフォンを押して間もなく、玄関がガチャリと開かれた。


「は、はーい……」


 気弱そうな声と共に現れたのは、目を見張るほどの綺麗な女性だった。女性と言っても浩介と同年代なのだが。


 鮮やかな黒髪のボブヘアで、ややタレ目の美人顔。白のシャツに、上からパーカーを羽織っている。恐らく下には何もはいておらず、シャツの裾から色白で健康的な太ももが丸見えになっている。


「あ、えと……同じクラスの新崎 浩介と言います。小夏 美緒さん?」


「えっ!!! あ、ど、どうも……」


(え、なんかすごい驚かれた……! そりゃあまぁ、学校行ってないのにクラスメイトを名乗る男が合わられたら警戒するよな……さっさと要件を説明して帰ろう、それがお互いのためだ!)


「いきなりお邪魔しちゃってすみません……担任の先生からのお願いで、プリント持って来たのでよかったら!」


「あっ、ありがとうございます……!」


 要件も済んだし、これ以上会話を続けても下心があると思われるだけだと思った浩介はこの場を後にしようと考える。


「それじゃあ俺はこれで……あの、体調不良? とかだったらお大事に!」


 学校に来ていないので体調を崩しているのかもしれないと思った浩介はそんな言葉を残し、その場を去った。……いや、去ろうとした。


「あっ、待って……」


 くいッと服の裾を引っ張られていた。振り返ると美緒もハッとしたように手を離す。


「あっ、いやあの……また来てくれますか?」


「え、えぇっ! い、いいけど……!」


「プリント、ありがとうございました。体調も気遣ってくれてありがとう……コウさんっ――」


 バタンッ、と扉が閉められる。


(なっ、なんだったんだ……コウさん?)


 名前を名乗ったのだから、そこから取ってそう呼んだんだと考えることはできる。が、初対面の異性を下の名前からとったあだ名で呼ぶのは不自然だ。初めてあった相手に気さくに接するタイプにも見えなかった。


(まさか……いやでもなぁ)


 浩介は自分のことをそう呼ぶ人物に心当たりがあった。ただ、いかんせん頭に浮かぶ人物と、さきほどまで目の前に居た人物は雰囲気が異なりすぎる。


 浩介の知っている朝日奈 コナツは、もっと天真爛漫で明るい性格なのだ。


 ◇


「うぅ~。最悪、絶対コウさんに変な人だって思われた……」


 小夏 美緒は扉を閉めたあと、しばらくしゃがみ込んで頭を抱え込んでいた。


 彼女は浩介の声を聞いた瞬間に確信した。彼が霧谷 コウであると。驚いて一瞬大声を出してしまった。


(そっか……高校同じなんだ。行ってみようかな……でもきっと、リアルのわたしを知られたら嫌われるに決まってる。あぁっ、でもついまた来て欲しいとか言っちゃったし、どうしよ~)


 思考をグルグルめぐらせているうちに、配信をミュートしたまま放置していることに気が付く。


「……よしっ!」


 浩介から受け取ったプリントが入った封筒を大切そうに棚に入れると、美緒はデスクへと向かう。


「みんなお待たせっ。ごめんね~時間かかっちゃって――」


 もうひとつの世界の自分、朝日奈 コナツとして。

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