第1話 美少女たちの登場。

 新入生たちは、入学式を終えてそれぞれが配属されたクラスへと戻って来た。浩介のクラスは1年1組だ。しかも席は名前の順で、新崎という苗字を持つ彼は右前の目立つ席になってしまった。


 担任の教師が教室にやってくるまでの間、浩介はイヤフォンで音楽を聴きながらWeb小説を読んで過ごす。


 なんとなしに周囲を見やると、周りの生徒のほとんどがすでに会話を交している。


(新しい環境だってのに、なんでみんなこんな仲いいんだよ……)


 これだけの短い時間で友達になったのか、それとも中学までの知り合いが居るのか、すでにクラスの中でいくつものグループのようなものができてしまっていることに浩介は絶望する。


 むろん、もとより浩介は高校生活に期待を抱いていたわけではないが、もう少しぼっちでも居心地よく過ごせる環境を夢見ていた。


 最悪なことに、中学まで彼をバカにしてきた同級生数名も同じクラスだ。


(これじゃ中学までと何も変わらないな……)


 嫌な気分を振り払うように、再びスマートフォンへと視線を戻そうとしたときのことだ。


 教室に入ってきた1人の女子生徒が浩介の隣の席にやって来る。そしてカバンをかけるとそこに座った。


 腰のあたりまでまっすぐに伸びた紺色のロングヘアー。お洒落な丸眼鏡をかけており、凛としたややつり上がり気味の美人顔。スカートは短く、黒のニーハイソックスを身につけている。


 その美しい容姿に、浩介はつい見とれてしまいそうになるのを押さえてスマートフォンに目を向けた。


 お隣の女子生徒は彼のそんな心境に気付くこともなく、澄ました顔で後ろ髪を払い、荷物の整理をし始める。


 そんなことをしているうちに担任の教師がやって来る。彼らの担任の阿島あじま 義男よしおという何とも頼りなさそうな中年の男性だった。


「えー、はい、とりあえずオリエンテーションも終わりということで……残った時間でみなさんに自己紹介でもしてもらいましょうか」


 そして入学式後の説明が終わると、トークデッキも尽きたのかいきなり自己紹介を提案し始める。


「あ、じゃあ……出席番号順で君から」


 案の定、出席番号順で浩介を指名してきた。


「えっ、はい。新崎 浩介です。趣味は寝ることです。よろしくお願いいたします……」


 そして、明らかに地味な自己紹介をしてしまい、教室は妙な空気に包まれる。


「あ、じゃあ次の生徒……」


(先生まで反応なしかよ!)


 高校生活完全にオワタ……と思いながら浩介は帰る時間が一刻も早く来ることを祈った。


 彼の祈り通り、やがて自己紹介も終わって解散となる。


 主に自己紹介で印象的だったことと言えば、隣の席の美人な女子生徒の名前が小笠原おがさわら 麗奈れいなという名前だと言うこと。


 明らかにクラスで人気者になりそうな美鏡みかがみ 朱音あかねという美少女がいたこと。


 そして1人、本日は欠席しているらしい小夏こなつ 美緒みおという生徒がいること。


(やっと終わった。さっさと帰ろ)


 クラス中が和気あいあいとした空気に包まれる中、浩介は誰よりも早く教室を出る。靴をはき替え、昇降口を出ようとしたとき。


「待って……!」


 誰かに呼び止められた。振り返ると予想もしていなかった人物が立っていた。


「もしかしてコウくん……?」


 クラスで明らかに人気者になりそうなオーラを放つ美少女、美鏡 朱音だった。

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