第7話
――僕は、花村さんが好きになったみたいです。
あの男は私を抱いてから情が移ったらしい。
元々弱気でされるがままの性格だったのもあるのか、
私が蹴り飛ばそうが胸倉を掴もうが嫌味を言おうが、
何でも柔和な表情で受け止め始めた。
時折、あの目は見せるけど。
恋人でも何でもない。
私はいじめっ子で、あいつはいじめられっ子。
それだけの関係だ。
「あらあら。じゃあ宇賀くんとホテル行ったの?」
「マジでイカレてきてると思う」
真夜中、咲と肩を寄せ合いながら帰路についていた。
あの日、屋上でやり取りした後、私はまたあいつから金を奪った。
で、その対価としてホテルに行ってあいつを抱き、抱かれた。
結果として、あいつの飛び降りを未遂で済ませることになったわけで。
その話を咲にしたら、やたら楽しそうに笑っていた。
「本当に紫らしくないわ。身投げを助けた挙句お持ち帰りしちゃうなんて」
「アタシもあんな奴に絡まなきゃいいのにな……」
「情が移ったのは宇賀くんだけじゃなくて紫もかしら」
歩く足が止まった。
マジかよ、という風な顔をしていたら、
咲が振り返って小さく笑った。
「私も今度混ぜて? 二人ばかりで遊ばないで欲しいわ」
「マジで言ってんのか」
「あら、私はいつも真剣に紫を想ってるのよ」
「咲も宇賀もイカレてるぜ」
「紫もね」
だろうよ。
そう言って、また道を歩き出した。
いつかの私が鏡で見たあの目は過去を思い出させる。
いつかの私が心に受けていた苦痛と悲嘆を思い出させる。
宇賀達也はその私と同じ目をしていた。
形は違えど同じ『兄』という存在に壊された。
だから、だから私はあいつをいびりたくなるのか。
あいつを放っておけなくなるのか。
下らない。
自分と似ているから。
そんな理由で――。
「咲」
「なぁに」
「アタシが死んだときは紫色の花を手向けてくれ」
「やだ、ちょっと。そんな約束したくないわ」
「こんな仕事をしてるんだ。まともに生きられるはずがねェ」
その言葉は建前で、本当は裏があった。
私は宇賀達也に引っ張られ始めている。
いつまで私が『この私』を保てるか分からなくなってきている。
「それでも私はしぶとく生き残りたいわ」
「いいんじゃないか。咲は賢いからな」
「でも、ダメよ。私の人生には紫もいて欲しいの」
「……愛が重いなァ、まったく」
私がぼやくと、咲が腕を組んできた。
咲が私に向ける想いも理解して受け止めている。
やれやれ。今度宇賀を抱くときは咲も連れて行くか。
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