輪廻転生~転生した病人は悪を演ずる~
アトラ
第1話 不条理な世界
誰しも、一度は思ったことがあるだろう。
もし、死んでしまったらどうなるのだろうか。
地獄か、天国か、それとも――。
俺は10歳の時から原因不明、名称不明の病気に陥っていた。具体的な症状としては、突発的な頭痛や腹痛、それに加えて神経痛と熱の発症である。
これが単体で来るならまだしも、この4つの症状が前触れもなく、決められた規則に従って、同時に襲ってくるというお墨付きだ。
まさに地獄――。
この病気の恐ろしさを表すのに、これ以上の名は見当たらないだろう。
そんな
いつものように、ベットの上でのんびり本を読んでいたその時――。
「う゛……ぐっ!」
突然、心臓を思いっきり握りしめられているかのような衝撃が走り、反射的に胸を抑える。
今まで感じたことの無い猛烈な痛みに、「これはやばいやつだ」と咄嗟にそう判断した俺は、ナースコールを鳴らそうと手を伸ばそうとする。
だがしかし、体が言うことを聞いてくれない。
(まずいまずいまずい……どうする……このままじゃ……)
頭の中が真っ白に染まった途端、それに呼応するかの如く、体の内側から外側にかけて悪寒に襲われ、意識が遠のいていく。
――俺がこの世界で最後に見たものは病室の天井であった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「はあ……はあ……」
心臓の鼓動が加速する中、両目を勢いよく開けた俺は、ベッドの上に横たわっていた。上体をゆっくり起こして、周りを見渡してみると、そこは薄暗く、気味の悪い場所だった。
ベッドの近くに配置された漆塗りの小さいテーブル。その机上には火の灯ったロウソクがポツンと置かれている。壁際には本棚が立ち並び、芸術的な絵画が飾られていた。
「何だこの部屋……」
呼吸を整えて気持ちを落ち着かせた後、俺はそう呟く。
そういえばさっきまで病院にいたよな……もしかしてだけど夢?
いや、そんなはずは無い。俺は
となると、思い浮かぶのは――
「転生……か」
それしか考えられなかった。だが、そういうのって普通、赤子からスタートするものではなかろうか。
うーん……考えれば考える程、頭が混乱してくる。とりあえず今は冷静になって落ち着こう。まずは身の回りの情報収集から……
「ようやく、目を覚まされたようですね」
「ひ……っ!」
いきなり真横からの冷たい声色にビクッと体が微動し、思わず変な声を出してしまう。
俺は、ロボットのようにゆっくり振り向くと、黒衣のドレスに包まれた黒髪の少女が座っていた。
「よろしければ、紅茶でもお飲みになられますか?」
「じゃあ……頼む」
「はい、かしこまりました」
やたら喉が渇いていた俺は即答すると少女はティーカップと紅茶の入ったガラスの容器をどこからか出現させ、その場で注いだ。
少女がティーカップを取っ手を手放すと宙にゆらゆらと浮きながら、俺の手元に届いた。意味のわからない状況に戸惑いつつも、差し出されたティーカップに手をかけ、静かに飲む。
「美味しい……」
味はフルーティな甘い紅茶だった。俺はあまりにも喉が渇いていたため、一瞬で飲み干してしまった。
「お気に召されたようで何よりです」
ここまで暗い表情をしていた少女は、初めて笑顔を見せてくれたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
紅茶を出してくれた少女の名は【アリシア・セレン】。平原で気を失って倒れていた俺を助けてくれたらしい。アリシアが持つ魔力と俺の魔力が反応を示して、直ぐに駆けつけてくれたとの事だ。
その行動には、過去に大きな背景があった。
――約500年前。
アリシア・セレンはハンブル王国で暮らしていた普通の少女だった。
そんなある日、両親からおつかいを頼まれ、街を歩いていたアリシアは、目的地であるパン屋で怒号を耳にする。
「今すぐ金をよこせ、早くしろ!」
「あんたなんかに渡すものですか!」
成人の男は女性の店主に対して、威圧的な態度で恐喝を繰り返す。周りの人々は見て見ぬふりをして去って行く中、アリシアは物陰から見据えていた。
激しい口論を繰り返した挙句、苛立った男は腰につけていた革のホルダーから小型のナイフを店主に向ける。
それを目にしたアリシアは、なんの躊躇もなく駆け出した。黒い瞳に涙を浮かべながら、アリシアは、男に飛びつく。
周りのことを気にする様子もなく、店主と向き合っていた男は、背中を強打し倒れ込む。手に持っていたナイフは地面に転がり落ちていた。
「この、ガキがぁあああああああ!」
怒りが沸点に達していた男は、雄叫びを上げると拳を強く握りしめ、アリシアの右頬を殴った。
「う゛……!」
アリシアは、殴られた部分を押さえながら、その場で泣き崩れる。口の中は舌を噛んで、血まみれになっていた。
「クソが、絶対殺してやる……」
アリシアは、その言葉が自分に向けられているものだとすぐに理解した。
一度遠ざかった足音は、不自然なリズムを奏でながらこちらへ近づいて来る。
「死ねぇぇええええ……!」
その瞬間、男はなんの前触れもなく倒れこみ、頭から血を流した。それを見ていたアリシアは、ふと眠気に襲われ目蓋を閉ざした。
気がつけば、アリシアは薄暗い部屋のソファーに座っていた。目の前にある小さな丸いテーブルの上には赤く灯るロウソクが一本立てられている。ズキズキと傷んでいた頬は、すっかり回復していた。
「私を助けてくれたのはあなたなのですか……?」
アリシアはテーブルの奥に浮かんでいる
「ああ、君はこの世界を変えられる。そう思ったからね」
魔力からは、若い青年のような声がした。
「私が……ですか?」
「今から僕のすべてを君に伝える。よく聞いてておいてくれ」
すると、漆黒の魔力は黒い布に包まれた人間に変化した。そして彼はアリシアに背中を向けながら話し出す。
「僕はもうすぐ死ぬことになる。だが、その500年後復活することだろう。その時、君は僕を救って欲しいんだ」
「でも、寿命が……」
「君が気を失っている間、僕の魔力を分け与えた。頬の傷が治っているのがその証拠だ。その力がある限り、君は永遠と生き続けることが出来る」
「そう……ですか」
「うん。じゃあ、僕はここで身を引かせてもらうよ。後は頼んだよ」
「分かりました。救って頂いたこの借りは絶対に返します」
彼は初めて振り向き薄らと顔を見せると、頷くと姿を消したのだった。
数日経つと、
彼がなぜ殺されたのかは公表されなかった。
アリシアは、センバルクという男があの時助けてくれた青年だと分かった。渡された自分の中にある魔力の灯火が弱まっていたからである。
アリシアはセンバルクを殺した
――それが、今の
次の更新予定
2024年9月20日 18:02
輪廻転生~転生した病人は悪を演ずる~ アトラ @atora58
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