【Ex. 003】他のお客様のご迷惑になりますので店内ではどうかお静かに

【登場キャラクター:男1. 市村いちむら 洸太こうた、男3. 東海林しょうじ 悠也ゆうや、男5. ブレード・グランドゥール、男22. 天城あまぎ 未来みらい天城あまぎ 昭一しょういち、男33. さかき 雪彦ゆきひこ、女1. 如月きさらぎ 華子かこ、女4. 東海林しょうじ 愛梨あいり、女7. 車田くるまだ あざみ、女9. 神崎かんざき こころ、女17. 川崎かわさき 奈都美なつみ、女23. ユリストフ・メェメェ、女34. 彩陶さいとう あや

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 コーヒーショップに女子大生が三人。

 注文を終えて商品を待つ間、賑やかに話の花は咲く。


「薊ちゃん。好きな人できたでしょ」

「そんなのいないってば」


 恋愛の話を振られた車田薊は淡々と答えた。

 しかし東海林愛梨と彩陶綾は真に受けず、二人で勝手に話を続ける。


「おっと、食い気味に否定してきましたよ。どう思われますか、解説の東海林さん」

「ええ、実に怪しい反応ですね。クロで間違いないでしょう」

「変なノリ止めてよ」


 呆れ顔の薊は二人へ冷たい視線を向けた。この話題への嫌悪すら感じられる。

 それでも愛梨はめげずに詰め寄っていった。


「だって最近、たまに恋する乙女の目でスマホ見てるでしょ」

「そんな目で見てないって」

「まあ自分じゃ気付けないよね。でもあれは確実に恋する乙女だったよ?」

「えー。またテキトーな事言ってぇ……」


 二人でグイグイと迫る友達にも薊は動じない。誤解だとの態度を崩さず、静かに乗り切ろうとしている。


「正直に言いなよ。相手は誰? やっぱり兄さん?」

「やっぱりって何。悪いけどあーいう人苦手だから……」

「二人でご飯行ってたのに?」

「しつこくて断りきれなかっただけだって」

「じゃあ榊君でしょ」

「ただのサークル仲間だってば」

「仲良く一緒に帰ってるのに?」

「あくまで友達として仲良いだけだから」

「それなら、コータさんだっけ? 例のお隣さん」

「それこそお隣さん以上の関係じゃないし」

「好きでもない男の人の部屋には行かないんじゃない?」

「なんでそこまで知って……」

「この前自分で言ってたじゃん」

「うぐっ」


 終わらない追及。執拗な質問責めが止む気配はない。ワクワクした表情からは元気と勢いが溢れんばかり。

 恋愛の話題で盛り上がる女子は無敵だった。


 そんな中、とうとう薊は爆発したかのように両手を振って抗議する。


「もー! そんなに恋バナしたいならナツさんとしなよ!」

「いやぁほら、なっちゃんの惚気話は別腹というか、ねえ?」

「付き合う前の好きかな? 好きじゃないかな? っていう微妙な時期の恋心を応援したいんだよ」

「だからそんなのないんだって! あーあ! こんな事ならカコさんと遊べば良かったなー!」

「華子ちゃんも最近男嫌いが薄れてきたよね?」

「恋バナに乗ってくるようになったもんね?」

「えぇー……最後の砦が……」


 仲間だったはずの友達の変化に絶望した顔となる。孤立した状況に助けは来ない。


 そこで薊は矛先を直接相手に向けた。


「そこまで言うなら自分達の話でもしてよ。ワタシばっかりじゃなく。ほら、二人とも最近良い感じなんでしょ?」

「うん。大分打ち解けてきたかな。ブレードからの印象も悪くないと思う」

「未来君とは順調だよ。昭一さんの事も受け入れられたし」


 しばらく追及を止め、二人はそれぞれに惚気る。恋する乙女の見本を示すように。

 しかしその内容が少々一般から外れていたので、薊は胡乱な目を向ける。


「……二人とも大丈夫? 入り込み過ぎのコスプレイヤーと二重人格者でしょ? もっとマトモな人にすれば?」

「ブレードは本物の騎士なのに」

「二重人格じゃなくて守護霊の昭一さんなんだけどなあ」

「ホラ、二人までおかしくなってる」


 薊の不審な目付きはまるで信じていないと物語っていた。

 友達思いではあるのだろうが、失礼な態度なのは変わらない。


「人の好きな人を悪く言うなんて薊ちゃんは酷いなあ。くすん」

「悪い子にはおしおきが必要だよね。こっちも辛いけど仕方ない」

「え、なに?」


 軽く怯える薊。失言を後悔しても既に遅い。

 愛梨と綾は揃って薊の肩を強く掴んだ。


「さあ早く誰が好きか白状して!」

「吐くまで帰らせないからね!」

「さっきと変わんないじゃん!」


 元通りの追及へ。その熱意は先程以上。

 もう他人へ話題は逸らせない。

 薊はいよいよ追いつめられていく。


「モテモテ薊ちゃんはあの三人の誰を選んだのかなー?」

「ワタシなんて選ぶとかそんな偉い立場じゃないし」

「モテる女は違いますなあ」

「だから変なノリ止めてよ」

「まさか三人同時!?」

「するわけないじゃん! 神崎こころじゃあるまいし」

「また友達を悪く言う! 照れ隠しだからって良くないよ!」


 叱る愛梨と曇る薊。

 話が脱線しかけたところ、綾が静かに呟いた。


「あれ? つまり今のって本命が一人いるって意味じゃ……」


 それを聞いた途端、薊の顔が赤く染まる。


「違う違う! ただの揚げ足取りじゃん! 本命なんていないし。別にアイツ、は……」

「ほら、意識してる人がいる!」

「いい加減白状しなよ!」


 墓穴を掘った薊に、ここぞとばかりに二人は詰め寄る。

 それでも薊は悔しげに歯噛みしつつ必死に耐え、沈黙を保っていた。


 そこに。

 お待たせしました、と店員が呼び出す。


「あ、あれワタシのだ! とってこなきゃ!」

「逃げた!」

「逃がさないよ!」


 はしゃぎながら移動していく三人。


 薊は追いつかれる前に店員からカップを受け取り、そして……不意打ちを受けた。


「がふっ……!」

「え、撃たれた?」


 不審な反応をした薊を気にして、愛梨は穏やかに近寄る。

 それに対し、慌てている薊はカップを必死に抱えていた。


「なんでもない、なんでもないから!」

「カップのラクガキ? 隠さないでよ」

「何が書いてあったのー?」

「ちょっ、止めっ、あ!」


 奮闘虚しく、二人がかりでカップを奪われる。

 そこには、こう書いてあった。


『あまじょっぱくてオイシイこえ コイしてるんだねっ もっとききたい!』


 妙なメッセージ。そしてたくさんのハートに囲まれた簡単な薊の似顔絵と、もう一人のシルエット。

 カウンターでは牙のような歯を見せて笑う店員が手を振っている。不思議な印象の彼女のラクガキはSNSでも有名だ。なんでも愛情の籠った声を美味しいと表現しているらしい。


 愛梨はニンマリと笑う。


「ほらあ、やっぱり恋してる!」

「こんなのあの人が勝手に書いただけだし!」

「でもその反応は正解なんじゃない?」

「や、ちが……」


 綾に言われ、言葉に詰まる薊。

 どう言い訳しても無理筋だと自分でも理解していた。


 そうして友達が期待して見守る中、薊は観念した。


「……分かったよぉ……言う。言うから……」

「本当に?」

「遂に認めるの?」


 半信半疑の二人。今度は優しく促すように語りかける。

 すっかりしおらしくなった薊は、熱の籠った声で囁いた。


「うん……好きになった人、いる……」


 真っ赤な顔を隠すようにニット帽を引っ張り、軽く俯く。

 照れた表情は強い恋心の表れ。


 愛梨と綾は黄色い声をあげて友達を応援するのだった。



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【本文の文字数:2,599字】

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