10月19日 公開分

【Ex. 002】いつか、君との約束を果たすために【残酷描写あり】

【登場キャラクター:男29. 三沢ミサワ 晴太ハレタ、女2. 三嶋みしま アリス、女6. 藤ヶ谷ふじがや 文香ふみか、女22. 天倉あまくら 芽芽音めがね、女25. 天下あました ミヤネ/オルタントゥ・ダスト、女27. 冴島さえじま 野乃花ののか、女31. 無藤ムトウ 有利ユウリ、女32. 鵼乃ぬえの アルル】

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「『全てよ塵へと還れオルタントゥ・ダスト!』ッ……!」


報告

外なる神による天界襲撃について



 原因不明の暴走をしたナイl?ら@_Gpが襲撃し天界を侵食。

 天帝は未曾有の危機として上級天使一六九人を編成し討伐に向かわせた。


『アハは、ダスとさん』

『ワたし達ト、いッショになりマ、シょ?』

「みんな」

『『アハハハ!』』

「……戻ってよ!」


 結果、上級天使全てが邪神の眷属へ真っ黒に堕天。原因は邪神が放った黒いナニカと推測。


『『『『死ね『アハ、z!

ハハア@fzアハハハ   y@"(g寂yA,hj_

&〆13


やめ=6.6☆6たアハハ!G@


 逃げ 


      wa○氏&!』』』あ』

「……『全てよ塵へと還れオルタントゥ・ダスト』!」


 第一討伐隊全滅後。

 全てを塵にする者オルタントゥ・ダストが乱入。

 堕天使達を一撃で倒し邪神と戦闘を開始。


(っのが直撃……だが!)


 状況は劣勢。

 世界システムも侵食されリセット不可。

 侵食も進み天界の二十パーセント機能停止直前を迎える。


 しかし


 終焉を作った元凶──宇宙の奥の赤い目に裁きが下された。

 世界管理、繁栄、消滅の一端を担う槍を、最終層守護者が使用した投げたとされる。



ラ グ ナ ロ ク神よ、塵へと消えろ!!!』



 一筋の光が終焉の空を照らし、邪神による侵食は塵となり、天界および地上の被害は最小限にとどまった。



 その後全てを塵にする者オルタントゥ・ダストは消息不明。

 未だ天使達による捜索は続いている。



    報告担当:天帝第三皇女エレフセリア




「結界貫通して落っこちるとか魔女かい。まさかころ……天使?」




追記:

戦闘前から彼女の性能低下を確認。

まだ調査中であるが戦闘の直前──下界の人間換算で数日前に、彼女と下界に降りた天使が人間に殺されたとの報告あり。










「ぅ……ぁ」

「ようやく起きたんか」


 目が覚めたらボロボロの天井が見えた。

 そして顔を真横に向ければ、特徴的な口調を使う小柄の女の子……人間が見えた。


(ひと……!)


 闇と光の間をウロウロしていた意識が一瞬で覚醒し、閉じかけていた目が開く。


 刹那の動きに名前をつけるなら"恐怖" 


 ただ天使は表には出さず観察する。


「……」

「ふんふーん🎵」


 逃げられる。

 幸運な事に少女は天使だと気づいていないし背を向けていた。


 なんて間抜けなのか。


(上に逃げれば──)

「やめとき、今のアンタじゃ飛べんやろ」

「!?」


 こちらが天使だとバレている。その情報が天使を跳躍から殺害へと行動を変貌させた。

 魔力もろくに無い小さな生き物、始末するのに一秒もいらない。しかし、


「あ、っ、いてっ!?」


 立ち上がることすらできず、バランスを崩して無様にベットから転げ落ちてしまう。


「飛べない……?」

「そら飛べんわ。今のアンタ、片方しかないんやから」


 本当に間抜けなのは天使だろう。少女に言われてやっと、自分が片翼である事に気づいたのだから。


「……」

「天使さん。これ食べるか?」

「そんなものいらない。人から施しは受けな……」



グゥ〜〜〜



「ほぉーんそれで? スゴイ腹が鳴っとっだけど施しは……?」

「…………………………………………食べる」


 少女が差し出したのはエウロギア。

 例えるなら膨らんでいないパンと言った所。

 見た目はそれだけ、ただ匂いと生命本能によって、食欲が湧く。

 

 沈黙と我慢は数秒。

 でも欲に負けた天使は奪い口に含め……


「…………おいしい」


 口の中で広がる幸福は甘味という、天使が初めて体験した味覚だった。天使なのに犬みたいな食べ方でお菓子を平らげてしまう。


 その時間たったの三秒!


「いや食べるの早すぎやろ! まぁええや。なぁ天使さん。一つ聞きたい事が」

「……すぅ」

「寝るのも早すぎや!」


 初めての死闘を経験した天使は限界を超えている。故に食事が済めば回復に勤しむのは当然の事だった。


「聞きたい事は後でええや。天使さんはこの絵本の魔女みたいに魔法使えるかな〜?」









『異端児は排除しろ!』

使から人を守れ!』

『魔女は悪魔の存在! 人類の敵だ!』




『『『コロセ、コロセ、コロセ!!!』』』




『助けぃやいだぃ……! 助け、てダスト!』








「ごめんごめんっ……ごめんない……!!!」

「…………………………」










「はぁ! ……ハァ、ハァ、夢か……」


 大きな焚き火の次は緑豊かなボロボロの家が見えた。自然は静かだが相変わらず人の足音はうる──


「起きたんやな」


 が話しかけてきた。


「よるな! それ以上近づいたら殺す!」


 取り出した一本のナイフを少女へ向ける。暗雲を晴らした槍と比べればなんとも頼りないが、ちっぽけな存在ゴミを殺すには充分。


「スゴイ敵意や。まるで親の仇でも打ち取るみたいやわ」

「あぁ! お前達に友達を殺された! 天使が守るべきお前達に!」


 激情に駆られた天使の息は荒く、けれど目線は外さない。あと一歩近づけば首に到達するナイフを離さないでいた。


 対して少女は。


「……母さん言っとったわ。人は光が必要やって」


 ひどく冷静だった。

 手に持つを渡すまでは死ねないという強い意志が少女の目にはあった。

 天使の怯える目より強い目が。


「貧しい時とか人の心は暗くなるんやと。だから輝く物が必要なんやって。それは光とか食べ物とか……魔法とか」


 剣には微動だにせずゆっくりと近づく。

 温かいエウロギアを渡す為に。


「これあったかいやろ? ウチの魔法で温めたんや」


 いいものが出来たと少し笑って、少女はそうやって渡せば沈黙が訪れる。けれど天使の感情はグチャグチャで、だからこそ芽生えた欲望には抗えない。


「ハムッ……!」


 手が掴んだのは控えのナイフではなく、暖かい食べ物。


「……おいしい……おいしい、おいしいよ」


 また乱暴に。溢れる涙を抑えきれないまま天使は頬張る。なぜこんなにも食べ物が美味しいのか、天国で自由に暮らしていた天使には分からなかった。

 


 






「ねぇ、君は何で外に出ないの?」

「え、そ、そりゃー……」


 それから数日後。

 まともに動けない天使はベットからそう言った。


「ほら! アンタ怪我しとるやん。怪我してる奴を放っておけるかいっての」


 突然の質問に少女は固まる。ただ何でもないように動き始めて質問を返すが、


「私は天使。だから人間と違って何もしなくても回復すると説明したはずだよ」


 少女の返しが答えになっていないと天使は言う。勿論、心配もしているだろう。


「君は魔法使いになりたいのだろう?」


 でも少女が絵本を熱心に読む様を見てしまえば、理由がそれだけではない事は分かる。

 そして無言で黙る事が肯定を意味する事も。


「外には出ないのかい?」

「…………出たいけど、出られんのや」


 返答に天使は首を傾げるが成程、回復した察知能力を使えば家の周りに結界が貼られている事がわかる。

 その魔術構成は天使である彼女でさえ感心する程。


(けどこれは……牢屋みたいだ)


 ただ中にいる人が外に出られないのは問題だろう。現に目の前の少女は少し悲しそうだ。


「……なら」


 自分に何ができるのだろう。そう考えたら、口は自然と動いていた。


「結界をどうにかしようか?」

「え、できるんか!?」

「もちろん。私を誰だと思っているの? 天界の守護を任された天使だよ」

「わぁーーーい!」


 そこで天使は、やっと年相応な反応を見れたと思った。元気が戻ってきたようで、見ているこちらも自然と笑みが溢れる。


(これが、輝きという奴かな?)


 こうして天使と少女の短い同居生活が始まったのだ。


 



「この本の魔女はうるわしのレディみたいだね」

うるわしのレディ……ウチもなりたい!」


「魔女の近くにいるのはウサギ……ネコ?」

「妖精や! これ可愛いやろ〜?」

「ようせい? ……こんな可愛いのが?」


少女と一緒に魔法の本を読んだり。


「天使の羽……これで飛んでるんやなぁ」

「あぁこれは飾りだよ。ほらグルグル〜〜」

「うわぁメチャ荒ぶっとるって、いたいたいたい!」

「あ、ごめん」


天界や天使の話を聞いたり。


「いたっ。イチチ」

「手か、ちょっと手を貸して……『ヒール』」

「…………キレイ」

 

 光の魔法で傷を癒したり。





 自然に包まれた古い家で、二人はゆっくりと傷を癒し平和な時間を過ごしていた。


 そして外に出る日がやって来た。









途中経過報告

黒の攻撃について



天使を堕落させた邪神の黒の攻撃について判明した部分がある為報告。

黒の攻撃は当たった対象に潜む心の奥を引き摺り出し、体を変化させている可能性あり。


『ワたし達ト、いッショになりマ、シょ?』


上級天使が仲良くなりたいと、慕っている守護天使を堕落させようとした原因もそれと推測する。


もし。


守護天使が変化するとして、心の奥に潜む感情を直近の出来事から推測するなら……

 





それは人に対する憎悪だろう。



 

 





 いつも通り目が覚めて

 いつも通り幸せな気分で

 少女の元へ向かった。


 そしていつも通り笑顔の彼女が見える


「……なん、で?」


 はずだった。


「……やっとおきたん、か」


  見えたのは真っ暗な天使自分の槍で貫かれている少女だった。




 どうして、私の影が?

 いやそもそもなんでこの子が?

 原因は?




『ワたし達ト、いッショになりマ、シょ?』

『あぁ! お前達に友達を殺された! 天使が守るべきお前達になぁ!』




……あぁ。私のせいじゃないか。




 

「なんで……泣いとるん?」


 影は塵になり、ここは天使と冷たくなっていく少女だけになった。

 手を触った時の暖かさはもう戻ってこない。


「僕のせいだ」


 少女の頬に涙がポタポタ落ちる。

 輝かしい羽は萎れ、天使は少女を精一杯抱きつく事しか出来なかった。

 なんて無力なのだろうか。


「何が天使だ」


 ここまでの力を持っておきながら。

 大きな過ちを犯して。

 大切なモノを失うばかり。


「僕は不幸ばっかり撒き散らす! 友達も少女も……! もう、私なんて」



──死んじゃえばいいんだ。



 そう言おうとして、


「アホかい」


 少女の手がその口を止めた。

 その言葉は間違っていると、体は死にかけているのに瞳だけはいつも変わらなかった。


「アンタが不幸にした、って……逆や。アン、タは幸せに……してくれたん、や」

「そんなはずは!」

「アタイ、死のうと思ってたんや」


 天使の目が見開く。


「少し前に魔法使いの母さん殺されて、家以外何もなくなって……死にたかったんや」


 天使は言葉を失うしかない。

 

「でもな、そうはならんかったんや」


 苦しそうにしながらも、いつものようなニカっとした笑みは忘れない。だって、憧れの存在と出会えたのだから。


「アンタが、ここに落ちてくれたから、アンタが魔法、見せてくれたから」


──生きていこうと思えた。


 少女は人を守る魔女である母に憧れていた。

 魔法で人を守り助ける魔女と天使。

 その二つは彼女にとってカッコいいヒーローだったのだ。


 そんなヒーローが自分の目の前に来た時は、それはもう心の暗雲が光で晴れていくようで。


「それ、に友達もでき、て」


 世界を知らなすぎるし、何処か引きこもりがちだし、ヒーローと言えない部分はあるけど、一緒に過ごして楽しかった。


 1ヶ月もない短い時間だが、その時間はとても幸せな時間だったからと、少女は精一杯の声で伝える。


「あり、がとう。アタイを……すく、ってくれて」


 その笑顔は紛れもない光だった。


 でも一つだけ。

 

「天使様……お願いがあるんや。自分の夢だったけど」


 誰だって憧れの存在になりたい。

 でもそれは叶えられないから托す。

 大切な友達に。


「天使様には……魔法で人を助けてほしい。それがアタイの──」



  

 ──ミヤネのお願いや。




 輝きは失った。

 残るはその意思を継ぐ天使のみ。


「……その願い確かに受け取った。そしていつか、叶えて見せよう。天使としてではなく君の友人として」









「なんでミヤネさんはここに?」


 

 現代


 魔法学校に入学した芽芽音は、天使から人へ転生したにそう聞いた。


「三沢君、これは受けられるかしら——ノノンシャワー!」

「受け取ってみせる──全てよ光に帰れオルタントゥ・グリッター!」


「……いきなりだね」

「なんか、気になっちゃって」


 芽芽音の周りに居た人は死の呪いによって死んでいた。母の魔法の守りで彼女は生きていたが、ずっと一人だったのだ。


 だがここに来てからは、アルルや文香にアリスと色んな人と関わるようになった。


 それはいい。


 だが彼女は距離感が分からなかった。

 故に今の質問。

 ミヤネは人に転生したが、魂までは天使のまま。その事情を理解した上で答える。


「約束だよ」

「約束……ですか?」

「あぁ、昔ヒーローになってくれって頼まれてね。それに」

「それに?」


 ミヤネの視線は芽芽音から訓練場へ。


「強くなったね三沢君」

「僕だってミヤネに追いつきたいですから」

「いいねぇ! なら次は私が相手や!」


 すると手を取り合う人達が見えた。

 天使にはその助け合いが輝いて見える。


 



「僕は光を守りたい。たったそれだけさ」


 

 

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【本文の文字数:4,987字】

【板野作品からの登場キャラクター】

・「新匿名短編コンテスト・再会編」参加作『魔法少女・ブルーム・アゲイン』より、マイからお姉ちゃんと呼ばれた魔法少女についていた『関西弁の妖精』(ただし今回はその前世)

https://kakuyomu.jp/works/16816927862378848244/episodes/16816927863059439429

・「ミケ猫さんを超えてゆけ杯」参加作『天帝の顔もN度まで ―ドジっ子アイドル爆誕秘話―』より、エレア(エレフセリア)

https://kakuyomu.jp/works/16816700428555431158/episodes/16818093085517306931

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