【No.065】いつか、君の隣にたてるように
【メインCP:男29.
【サブキャラクター:男5. ブレード・グランドゥール、男18. シックル、男25.
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僕はかつて天使だった。
天の遥か
とても弱いくせに、時に醜い姿を見せてくる小さい小さい……本当にちっぽけな存在。
最初は嫌だった。
恩を仇で返したり、弱者がさらに弱い奴を虐める。全てがそうではないと分かっていていも、そんな奴らがいるというだけでやる気は出なかった。
たまに酷い言葉をかける奴だっていたし。
それなら自堕落な生活をしていた方が何万倍もイイ。
そのはずだった。
いつからだろうか。
僕は人間の事を好きになっていた。
あの輝きを見て僕は目を奪われていたんだ。
人間が時折見せるあの輝きに。
東京のとある高校。
そこには色んな能力を持つ人達がいるが、その中でも最近付き合ったと話題になった二人がいた。
「ミヤネさん。どうしたんです……どうしたんだ?」
学校の屋上に繋がる扉を開いたのは、引き締まった筋肉を持つ長身の男子。
「うんうん晴太君。その口調でよろしい」
雲行きが怪しい空の下。
長身の男子……
晴太と話す女子の名を
天使と見間違えそうなほど綺麗な彼女は、その些細な動作一つとっても美しく見える。
「少しづつ強くなってるね。段々と私に近づいているじゃないか」
「俺だって、尊敬してる魔法の先輩と訓練してるからな!」
少し前に告白して、珍しい経緯から恋仲とも相棒みたいな関係になった彼らだが、今回は恋愛とは関係ない事を晴太は悟る。
ミヤネは笑顔だが笑っていなかったから。
「……あの子は知っているかい?」
ミヤネに視線を促されて、晴太がグラウンドの方を見れば女性が一人。
下校時間の今、その光景に不思議な所はないが……
「あ、ミヤネさんと良く一緒にいる」
「そう。芽芽音君だよ。私の友達さ」
黒髪ロングストレートで、どこか不安気な彼女はミヤネのスイーツ巡り仲間だった事を晴太は思い出す。
「あの子がどうしたんだ、別に魔法と関係なさそうだけど──」
「彼女はね、どうしようもない程『死』に取り憑かれている」
「え?」
ミヤネは淡々と話す。
芽芽音は呪われていて、それのせいで両親が、友人や大切な人が死んでいる事を。
身近な人が死ぬ事を何度も経験しているせいか、一人になりたがっている事も。
「もしかして文化祭の門が倒れたのも……」
「彼女に憑いてる『死』のせいさ」
晴太がバンドをした文化祭でも話題なった話だ。呪いは今でも確実に続いている。
「お陰で友達がペシャンコになる所だった。まぁアルルと確か玉森君だったかな? あの二人がいたから様子見したけど」
「玉森? ……いやミヤネさんでも、その『死』はどうにかできないのか?」
晴太がそう尋ねたのはミヤネが元天使だからだ。先輩の魔法少女より強い。だからこそそう質問したのだが……
「無理だね」
現実は残酷だった。
人間の身では力不足だと溜め息をするミヤネを見て、晴太は嫌でも実感する。彼女が話している存在は、自分の手には終えない存在だと。
だが晴太はそんな事で止まらない。
少し前に『魔法』という特別な力に目覚めた彼が辿り着いた結論は一つ。
『守る』
それは彼の善意と、尊敬する人に近づきたいと言う二つの意思から来たものでもある。
その事はミヤネも分かっているだろう。
「今もアルルと玉森君が守ってくれてるけど、彼女の『死』は止まらない。むしろ対象者が消えない限り加速する」
だから彼女は絶対的な事実を伝える。
「このままだとアルル達は死ぬよ」
ソレは唐突に来た。
「センパイ。マズイっすねこれ……!」
「あの触手。今まで戦ってきた奴よりつえぇ!」
鵼乃 アルルが芽芽音と街でデザート巡りをしていた時に、空が暗黒に染まった。
最初は雨でも降るかと思ったが、降ってきたのは雨ではなく黒い触手。
空に真っ暗な異次元の穴が生まれて、そこから目にも止まらぬ速さで迫り来る数々の黒い線。
一つ一つが人を簡単に吹き飛ばす怪力の持ち主で、ムチのように唸らせれば一般人の命なんて軽く蹴散らせるだろう。
その群が芽芽音を襲った。
「アルル、右からも来てるぞ!」
「分かってるっちゅーの!」
気絶している芽芽音を守るように鵼乃と玉森は応戦する。
鵼乃はグローブという両腕の亡霊を使って。
玉森は母親から教わった風魔法を使って。
二人とも見事な連携で迫り来る触手を粉砕したり切り刻んでいる。
「チッ……一個一個が強くてキリがねぇ」
「どこまで増えるんだよアレ……!」
だが数が多い。
次第に増える触手に押され、均衡を保っていた戦場も段々と不利になっていき──
「っマズイ!」
一本。玉森達の横を通り過ぎてしまう。
((間に合わねぇ……!))
二人も何とかしようとするが他の触手が集中して二人を襲い、動きが取れなくなっていた。
死を具現化させたような黒い触手が命を刈り取り、それを止める者はいない。
「間に合った」
──彼以外は。
天に蠢く触手の影で黒に塗られた大地に一筋の光が指す。光は鉄の、異界の剣士から貰った剣の光沢によるもの。
剣によって一本の触手は塵へと還った。
触手を斬り殺した魔法戦士の名を三沢 晴太。
「晴太!? 何でここに、いやお前その剣って……」
「もしかして文化祭でセンパイとバンド組んでた人?」
「悪い二人とも。色々言いたい事はあると思うけど」
彼らが話している中で容赦なく迫り来る触手の群を、晴太は一撃で斬り殺しながら二人に振り返る。
「俺に力を貸してくれ!」
そして頭を精一杯下ろした。
説明としては不十分。
目的が分からない。
経緯を話していない。
そもそも目的は分かっても、あの敵を倒す方法すら説明していない。
それ以前に晴太はこの二人とそこまで関連性がない。
共通しているのは『お人好し』なだけ。
「……はっ。文化祭の時も思ってけど、全然チームプレーできてないぞお前」
「ハァ〜〜……そうっすよ。ほんと言いたい事ありまくりだぁ」
でも、だからだろうか。
どこまでも真っ直ぐな思いが伝わるその姿勢に、頼まれた二人は笑顔で応える気持ちになれた。
「「分かった!!」」
顔を上げた晴太が見えたのはヤル気満々の笑顔で頼もしさを感じさせる
『aito@(jh!.?idK.?#yh)!??t.h!?!』
三人の闘気に当てられてか、触手の動きがより激しくなる。
「で、晴太! 作戦とかはないのか!」
「あの触手野郎、守りと攻めの準備入ってるんだけど!?」
「その二つをぶっ飛ばしてくれ。最後は俺がやる!」
「「オッケー!!!」」
残り全ての触手が一箇所に集まり……纏うようになる。纏う対象は異次元の穴周辺。何重にも重なり球体の絶壁になったそれを破るには莫大な力が必要だろう。
一つ目の鬼門『守り』
そして触手が守っているのは暗黒の異次元の穴だけではなく、穴周辺に集まっている莫大なエネルギーだ。
もしアレが放たれるのを許してしまえば、人どころかこの地域が吹っ飛ぶだろう。
二つ目の鬼門『攻め』
その二つを超えてようやく本命だ。
そしてその本命を倒さない限り、このやり取りは永遠に繰り返される。
三つ目の鬼門『本命』
これらの情報交換をたった四回の会話で完了する。
ならば後は行動するのみ。
そして最初に動いたのは亡霊憑きの鵼乃 アルルだった。取り憑かれてるとは思えない好戦的な笑みで彼女は言う。
「知ってるかセンパイさん方よぉー?」
──障害物は避けるよりぶっ飛ばした方が手っ取りばやいんだ。
「行くぜグローブ!」と鵼乃は鬼神の如き力を呼ぶ。
魔法にも見える腕だけのソレに宿っているのは単純なパワーのみ。
「全部ぶっ飛びなぁ──」
だが亡霊の腕に溜め込まれていくパワーと、彼女の江戸っ子気質で真っ直ぐな熱さが混ざれば……それは道を作り出すだろう。
『ギガ────!!!』
対抗するは『守り』のツタ。
約百本。
それら全てを。
『パ・ン・チ !!!』
単純明快な拳で粉砕した。
一つ目の鬼門、消滅。
(まさか母さんに感謝する事になるなんてな)
鵼乃の隣を耳が少し尖っている男が通り過ぎた。
右腕に風の魔法を纏う男の名は玉森 観取央。
『俺に力を貸してくれ!』
彼は晴太の言葉、いや姿勢を走りながら思い出していた。人助けの為ならとことん進む気概を感じる真っ直ぐな彼の姿を。
それは玉森にとっても目指したい姿でもあった。
(カッケぇ……オレもいつかはあんな風になりてぇな)
男はそう思った……思っていた
(……なりてぇなじゃない)
玉森は自分でも単純すぎないかと思う。
他人の真っ直ぐな姿勢を見て、ここまで本気になってしまうなんて。
でもいい。
それでいいんだ。
今はただ叶える為に全力でやろう。
──なるんだ、カッケェ男に!
奔流する全魔力が集まった右腕から放たれるのは『静』の真っ直ぐな風。手刀で解き放たれた風に鵼乃の豪快なパワーはない。
だが男の熱意は本物。
触手の
キッパリと綺麗に斬られた。
二つ目の鬼門、消滅。
そして最後に突撃するのは──
「行け、晴太!」
その男は剣を持って地面を駆ける。
『
魔法がある世界に生まれながら魔法が使えず、されど人を守る為に剣技を磨き上げた
『まぁ愛する者をこの手で守る為だ。お前もそんな勇気を持つ男になれよ』
心のギアが一つ上がったのを感じた。
恐怖で震えていた手が段々熱くなるのを感じる。
『スマイルとか、必殺技とかどうやっているかって?』
『そうやなぁ……自分技とか覚えたの最近やし』
ある時に晴太は自分の力に行き詰まりを感じていた。
そんな不安から、
最初に返ってきたのは鍛錬をしたから。
当然だろう、努力すらしない者に更なる高みに昇る資格はない。
分かりきっていた返答にガックリしてしまうがその後の答えは晴太の心の中に残っている。
『でもその上で強さを決めるといえば』
『気持ちやろ気持ち』
──晴太。君は一体何を成し遂げたいの?
(何をしたい、か)
さっきまで不安で心が揺らいでいたのに、気付けばその事に集中していて、雑音が遠くなっていく。
晴太は漠然とした過去を振り返る中で、眩しすぎる光を見た。太陽みたいに遥か遠い場所にいるのに、その姿はどこまでも僕に見せつけてくる。
あぁそうだ。
いつか、君を守れるように──
──いつか、君の隣にたてるように。
『
晴太の思いに魔法は応え、彼は白銀の騎士という、まさに人を守る意志の具現化と化す。
そして彼が成し遂げたいと思うものは……
どこまで行ってもカッコいい最強の天使!
『
剣を振り上げれば天までに届く光の奔流が生まれた。純白な光が暗黒の空を晴天へと変え、強大な闇の魔物を飲み込んだ。
邪悪な魔物は消えて地上に平和が戻り、強大な光は粒子となり『お人好し三人』を祝福するように地へと降り立っていた。
「お疲れ様、晴太君」
見守っていた天使はそう言って去っていく。
「ごめんねシックル君。君の大切な友達なのに我慢してもらって」
「分かってますよ。今の僕にできるのは『死』を見つけるだけで、あの『守り』を突破する邪神に勝つ事はできませんから。絶対いつかは助けますけど」
「それでいいさ。『死』そのものをどうにかするのは君の役目だろうから」
晴れた空の下、高校の屋上で天使と死神がグラウンドを見ていた。
見える先には新しくできた友達と仲良くしている芽芽音の姿が。前見た時よりも笑顔が増えている。
「聞いていいですか? あの戦い、天使様が参加すれば一瞬だったでしょう?」
死神が前提を崩す質問をした。ミヤネは無理と言ったのは、あくまで『死』の呪いを無くすだけ。
あの邪神の使徒でさえ彼女からすれば塵に等しい。
「僕は神じゃない。ずっと戦う事は無理だし、今すぐに地球の反対側まで行って敵を倒す事もできない」
所詮、強力な一人でしかないよと言うミヤネに、死神は無言の形でその言葉を肯定した。
ただその言葉に賛同しつつも、そうじゃないだろうと死神は突く。
「理屈とか無しの勘ですけど、それだけじゃないですよね天使様」
「あはは、流石にバレるか」
白々しく笑うミヤネだが、次の瞬間には真面目な目で仲良くしている彼女達を見た。いや、厳密に言えば一人の男を。
「僕はね。ただひたすらに真っ直ぐに頑張る人が大好きなだけさ」
輝きを持つ男を見て。
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【本文の文字数:4,998字】
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