【No.041】「好きなものを好きだと言いたい」愉快な仲間たち

【メインCP:男9. 加賀かが 可惜あたら、女14. 流山ながれやま みな】

【サブキャラクター:男16. 絹傘きぬがさ 秋水しゅうすい、女16. 天文あまふみ 宇美うみ

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「みな、今日からコイツと一緒におでかけするぞ」


パパはそう言って、執事を呼んだ。

しわ一つない黒い服に銀色のメガネ、ニコニコとこちらを見て笑っている。


「こちらはボディーガードの加賀かが 可惜あたらさんだ。

執事服を着ているけど、腕は確かだから」


「初めまして、流山みな様。

MJ-13から参りました、私のことはセバスチャンとお呼びください」


そう言って、加賀さんは深くお辞儀した。

ボディーガードなんてどうでもいいから、私はさっさと宿題をしたい。


「……大丈夫なの、その人」


「大丈夫だって。MJ-13つったらアレだぞ、それはそれはスゲェ会社なんだぞ? 

なあ、加賀さん?」


「はい、もちろんでございます。

全身全霊で務めさせていただきます!」


「だそうだ。警備会社でも評価かなり高いみたいだし、大丈夫でしょ。

それじゃ、4時になったら出かけるからなー。宿題やっとけよー」


そういって、パパは加賀さんを置いて部屋に戻った。

ボディーガードだかなんだか知らないけど、知らない人がいるのはなんだか落ち着かない。私は加賀さんを見なかったことにして、宿題のドリルを出した。

算数は好きじゃないけど、頑張らないと。


「さて、お茶でも淹れましょうかね。お嬢様は何がお好きですか?」


「悪いけど、うちには麦茶しかないよ」


「心配ございません。珈琲から抹茶ラテまでなんでもございますよ」


胸ポケットや服のそでから次々と飲み物の粉が出てくる。

その細い服のどこにしまってあったのだろう。


「……じゃあ、ココアにする」


「かしこまりました。少々、お待ちください」


加賀さんは台所へ向かった。

見た目はあんなだけど、いい人なのかな。

私に悪いことをしようとしないし。


「ねえ、加賀さん」


「私のことは、お気軽にセバスチャンとお呼びください。ね、お嬢様」


絶対に名前を呼ばせようとしない。自分の名前が嫌なのだろうか。

なんとなく、分かる気がする。


「ねえ、セバスちゃん。

私、今までいろんな人と遊んできたけど、えっと、MJ-13だっけ? 

そんな会社、聞いたことないよ」


加賀さんの動きが少しだけ止まった。


「……知らないほうがいいと思います。あのような組織、ないほうがいいですから」


「でも、仕事がなくなったらセバスチャンがパパみたいになっちゃうよ。

そんなのダメ、絶対!」


「ありがとうございます。まあ、この不景気ですから。

選り好みしなければ、どうとでもなると思います。

さ、お嬢様。ココアでございます」


柔らかい笑みを浮かべ、ホットココアを出してくれた。

本物の執事ってこんな感じなのかな。加賀さんは一言も喋らずに洗濯物をたたんだり掃除をしていたり、何も言わずに働いていた。


「ねえ、ボディーガードってそこまでやるもんなの?」


「ボディーガードだけでなく、身の回りのことをするのも執事の務めですから」


「そういうもんなの?」


「そういうもんですよ。私が好きでやっているので、お気になさらず」


執事服を着ているけど、やりたいことをやっているんだ。

家事はずっと家政婦さんに任せていたから、なんだか不思議だ。

ママがいなくなった後は自分の服は自分でたたむようになった。

パパも自分の分だけやっている。


執事と言えど、他の人に自分の服を触られるのは嫌だ。

いつものように物干し竿から自分の服だけ取って、タンスにしまった。

服もお客さん以外、誰も買ってくれない。


「じゃあ、着替えてくるから」


お出かけなんて楽しいものじゃない。知らない人からお金をもらって遊んでいる。

よく分からない料理屋とかゲームセンターとか、私が可愛いから連れて行ってくれるんだって。

たった一度しか会わない人もいれば、何度も会いに来る人もいる。


大人なんて嫌い。パパも先生もみんな大嫌い。加賀さんは分からない。


「お、準備できたか。んじゃ、ミセスナイアルで待ち合わせだから。行くぞー」


駅前のドーナツ屋でパパと私、ボディーガードのセバスチャンがいる。

執事の格好がすごく目立つからか、みんなこっちを見ている。


普通にドーナツを食べて帰りたい。それじゃだめなのかなあ。

セバスチャンのことをもっと知りたい。


お子様セットにはキーホルダーがついてくる。

青色のくーたんと黄色のはすたんのどちらかが選べるみたい。

タコみたいなよく分からない生き物がきゅるんとしていて、なんかかわいい。


ただ、今だと食べられないかな。お客さんも来るし。

セバスチャンはメニューをじっと見ている。


「すみません、このお子様セットって大人でも頼めますか?」


「はい、もちろんですよ。おもちゃはどうされますか?」


「それでは、このくーたんをください」


セバスチャンの声がはっきりとお店に響く。

後ろに並んでいた外国人の女の人の目が輝き、にやりと笑う。


「なーるほど、それはいいことを聞きました! 私もお子様セットにします!

ずっと前からくーたんが王様に似ていると! 常々思っていたので!」


店員さんは何も言わずにお子様セットを準備している。

パパは何も言わない。


「あの、大人なのにおもちゃが欲しいんですか?」


「お恥ずかしい話ですが、このくーたんにビビッときたんですよ。

なかなかキャッチーでかわいいと思いませんか?」


「分かります。私もおもちゃが好きですが、なかなか頼めないのです。

まずは、あなたのような子どもを優先しなければなりませんから」


「ですよね、それが難しいところです」


二人でうなずいている。パパはだんまりを決め込んでいる。


「さて、お嬢様は何になさいますか?」


セバスチャンもなんだかうれしそうだ。

好きだから、その恰好をしているんだもんね。


「じゃあ、私もお子様セットにする。私ははすたんにしようかな」


「それでは、私も同じものにしましょうか」


みんなでお子様セットを頼んで、キーホルダーを持ち帰った。

これで終わればいいのに。ドーナツ屋の前で待っていると、顔がボコボコになった男の人が倒れてきた。気絶しているのか、ピクリとも動かない。


「ねえ、アンタがナガレヤマミナさん?」


作業服を着た男の人が来た。セバスチャンがすっと前に立つ。


「このオッサンがアンタらを尾行してたんだわ。

あのクソメスガキがどうのとか言ってたしさ、どうなの?」


パパはしゃがんで、男の人の顔を何度かはたく。


「……こいつ、この前の客じゃねえの。こんなことしてる場合じゃねえ。

ちょっと相手方に連絡入れてくる」


パパはスマホで連絡を取っている。


「このオッサンが尾行していた証拠なら、これに入ってるので」


全然気づかなかった。いつからこんなことになっていたんだろう。

男の人はセバスチャンにUSBと封筒を手渡した。

パパは後ろで警察に連絡をしていた。


「それじゃ、俺はこれで帰ります」


「そうですか。みんなでドーナツでも食べようかと思ったのですが」


「ドーナツばっかり食べてると胃に穴が開きますよ?」


二人は楽しそうに話している。


「セバスチャン、知り合いなの?」


私がそう聞くと、全員振り返った。


「ストーカーを捕まえた彼は優秀な修理屋で、ミスター・パワーボンドと呼ばれているのです。私も何度かお世話になりました」


「俺は絹笠といいます。修理したいものがあったら持ってきてください。

例えば、靴とか鞄とか腕時計とか」


セバスチャンを無視して、絹笠さんは私に名刺を差し出した。

見たことのあるマークだ。確か、駅の中にある修理屋さんだ。


「ミミちゃんも直せますか?」


「ミミちゃん?」


「ぬいぐるみなんだけど、どうすればいいのか分からなくて……」


ママからもらった宝物、耳がとれてしまってどう直せばいいか分からない。

それだけでなく、おもちゃは大体壊してしまう。

壊れたおもちゃは取っておいてある。どうすればいいのか、分からないから。


「おもちゃは専門外だけど、腕のいい職人を知っています。

頼めるかどうか聞くだけ聞いてみますので、持ってきてください」


「よかったですね、お嬢様。どうにかなるかもしれませんよ」


セバスチャンは嬉しそうに私に笑いかける。


「アンタは楽しそうでいいな。俺も執事になろうかな」


「あなたが黒い服を着たところで、死神にしか見えないのでは?」


「そこまでいったら地獄の皇帝になりたいけどね。それじゃ、あとはよろしく」


絹笠さんも手を上げて、去っていった。

友達か何かなのだろうか。よく分からない。


「お嬢様、その壊れたぬいぐるみを見させてもらってもいいですか。

どうにか頑張ってみます」


「頑張るって?」


「私なりに最大限の努力をするだけです。

好きな物が壊れたままだと悲しいですから」


「分かった。家に帰ってからね」


今日のお出かけは中止になって、セバスチャンを連れて帰った。

美味しいご飯を作ってくれた。ぬいぐるみ、直るといいな。



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【本文の文字数:3,488字】

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