【No.011】お砂糖は秘密を溶かしてから

【メインCP:男1. 市村いちむら 洸太こうた、女1. 如月きさらぎ 華子かこ

----------



【Attention】

この物語は現実にある、でもちょっと特殊なVRの世界について扱うため、用語解説を行うぜ! よろしくな!


【用語1:バ美肉】

バーチャル美少女受肉の略だ! バーチャルの世界で美少女になることだ! バ美肉おじさんという用語もあるが、中の人はおっさんとは限らない。高性能ボイスチェンジャーの登場により、中の人の性別を完全に隠して活動することも不可能ではない。だが、トラブル防止の観点から、バ美肉であることは周囲に明かしておいた方がベターだぞ。



 うーん。今月も伸びが悪いなぁ。


 僕はアナリティクスと睨めっこしながら、眉間に皺を寄せた。


 バ美肉Vtuberをはじめて、早くも三ヶ月。とりあえずの目標だった、チャンネル登録者百人を目前にして、登録者が増えなくなってしまった。


 僕のチャンネル『猫見ややチャンネル』のメインコンテンツは、実際に使っている高性能ボイスチェンジャーの説明など、ガジェットを紹介したり、最新テクノロジーに触れたり、いわゆる『やってみた系』だ。そろそろ新しいことに挑戦するか……と考えていた矢先、有名配信者のバズっている動画が目に入った。


 そうだ、これだ!


 VRworldというVR世界を楽しむコンテンツ。前からVR機器には興味があったし、流行りのコンテンツで新規リスナー獲得のチャンスである。善は急げだ。社会人の財力を活かし、僕は早速VR世界にログインしたのだった。


 ……のだが。


「よう、お嬢ちゃん。俺らとプラベいかな〜い?」

「……あの、ボイチェン使ってますが、僕は男で……あと配信しているので、そのアバターで近づかないでいただけると」

「可愛くて男とかお得じゃ〜ん。俺らも男だぜ〜。冷たいこと言うなよ〜」


 て、典型的なチンピラに絡まれてしまった……。そのアバターというのは、チンピラ二人の、全裸に絆創膏だけした大変えっちな女性アバターのことである。声はゴリゴリの男だが、チンピラも僕と同じバ美肉だったのである。バ美肉はいいんだけど、ほぼ全裸のアバターは、配信プラットフォームに怒られてしまう。どうしよう……。


「ちょっと、こっちこいや〜」


 チンピラの一人が、僕のアバターの腕を掴んだ。


「んひゃ!」


 変な声が出てしまった。チンピラ二人の目つきが変わった……ような気がする。


「おいおいVR感度持ちか? 初心者のくせに才能あんなぁ、おい」


 よくわからないけどヤバい気がする‼︎



【用語2:VR感度】

VRの世界で、実際に触られているように感じること。現在の技術ではVR内での触覚を現実世界に反映することは不可能だが、視覚や聴覚に引っ張られて、触覚を感じる人もいるぞ! 朝日を浴びて温かく感じる、アバターの耳周りを触られてゾワゾワするなど、感じ方は様々。要は階段から落ちる映像を見て、心臓がヒュっとなるアレだ! けしていかがわしい言葉ではないぞ! だが妙な方向に活用している人もいるし、ネトゲやSNSのようにVRでも変な輩はいる。インターネットの変な輩には気をつけような!



 ヘッドセットも持っていないのに、VRで遊ぶようになったのは、進学を機に離れ離れになった女子校時代の友達と遊ぶため。デスクトップ無言勢と言われる、ゲーム画面を見るようにしてテキストでコミュニケーションをとるやり方は、色々な人と遊ぶには不便だ。わたしを引き入れた張本人は、早々に飽きてしまって、今では一人でログインすることが多い。


 普通のゲームと同じで男性比率が高く、オトコ嫌いのわたしには向かなそうなVRだが、アバター越しのため、見た目で判断されない世界は、変なアプローチをかけられず心地が良かった。ちなみにわたしは『February』という名前で、筋肉マッチョマンのアバターを使っている。


 VRにも慣れてきたある日、変なオトコに絡まれているところを助けたのが、今一番仲がいいフレンドの『猫見やや』さんだ。ボイスチェンジャーを使ったバ美肉勢で、Vtuberとして配信をしている。最初はそのいかにもオトコが好きそうな配信上の口調や設定が受け付けなかったのだが、VRで色々なことにチャレンジしている猫見さんを見ると、口下手だけど頑張っているところとか、どんな人にも誠実な態度なところとか、いいところがいっぱいあった。


 たぶんVR上で猫見さんが一番仲がいいのは、わたしだ。わたしも同じ。お砂糖なんじゃないかと揶揄われた時、お互い満更でもなかった。でも、わたしは猫見さんに隠していることがある。


 わたしが女だということだ。


 猫見さんは最初からバ美肉勢だと明かしてくれたけど、わたしは声を出さずに過ごしてきた。だから、マッチョアバターの中身が、実は地雷に擬態している系女子であることを、猫見さんは知らない。正直怖い。女と分かった瞬間に、失礼な態度を取られたら、人間不信になる。


 モヤモヤしているうちに、猫見さんにプラベに誘われてしまった。猫見さんと二人きり……。思い切って、わたしは声を出すことにした。アバター越しでもわかるくらい、猫見さんは驚いていた。でも、口下手なこともあってか、わたしが自分のことやVRを始めた経緯など、話しおわるまで、彼は黙っていた。


「……び……びっくりした。声、可愛くて」


 可愛い……。侮られているようで複雑なわたしの心情を察したのか、猫見さんは言葉を続けた。


「……実は……僕も女性にトラウマみたいなのがあって。……でも、女性だって分かっても、FebruaryさんはFebruaryさんだから。……もしよければ、これからも、一番仲のいい、特別な友達でいてくれると嬉しいです」



【用語3:プラベ】

原則的に他の人が入って来れない、プライベート空間のこと。非公開ワールドともいう。みんなには見られたくない話をする際に使うため、後述のお砂糖といちゃつくためにプラベにこもる人もいる。


【用語4:お砂糖】

VRでの恋人関係、カップル関係のこと。ネトゲの結婚文化同様、一番仲のいい友達程度の意味でお砂糖というユーザーもいるため、注意が必要。しかしながら一般的には砂糖を吐くほどに甘〜い関係ということだ。それを疑われて満更でもないということは……?



----------

【本文の文字数:2,493字】

★この作品が気に入った方は、応援、コメントで投票をお願いします!

★特に気に入った作品はコメントで「金賞」「銀賞」「銅賞」に推薦することができます(推薦は何作でも無制限に行えます)。

★各種読者賞の推薦も同じく受付中です。今回は「キュンとした賞」を含む常設の読者賞に加えて、「末永く爆発しろ賞」「さっさとくっつけ賞」「ギャップ萌え賞」「オトナの恋愛賞」を特設しております。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る